インスタレーションアートを通じた環境への問いかけ
2000年代に入ると、インスタレーションアートはさらに大規模で野心的な作品を生み出すようになります。その代表格がオラファー・エリアソン(1967-)です。彼の《The Weather Project》(2003年)は、ロンドンのテート・モダンのタービン・ホールで展示され、インスタレーションアートの可能性を劇的に拡張しました。
この作品では、約200個の単周波ランプで照らされた半円形のスクリーンが、天井に設置された鏡と組み合わさることで巨大な屋内の夕日を作り出しました。空間には人工的な霧が満たされ、まるで本物の日没を体験しているかのような感覚を生み出したのです。
サイズは長さ155.4メートル、幅22.3メートル、高さ26.7メートルという巨大なもので、タービン・ホール全体を使った圧倒的なスケールでした。
エリアソンの作品で興味深いのは、その仕組みを隠さないという点です。ホールの端まで歩いて行けば、太陽がどのように構築されているかを見ることができ、美術館の最上階からは鏡の構造の裏側も見えるようになっていました。
つまり、作品は「人工物」であることを明示しながらも、鑑賞者はその美しさと崇高さに心を動かされるのです。エリアソンはこの透明性によって、鑑賞者に知覚の行為そのものを意識させ、畏敬の念を抱く瞬間に捕らえられている自分自身に気づかせようとしました。
展示期間中、多くの訪問者が床に横たわり、天井の鏡に映る自分自身とオレンジ色の太陽を見上げる光景が見られました。人々は自発的に鏡に映る自分たちの姿で文字や形を作り、この体験を他者と共有しようとしました。
エリアソンは展示に先立ち、テート・モダンのスタッフに「天候現象があなたの人生の進路を変えたことはありますか」といった質問票を配布し、人間と天候の関係性を探りました。この作品は、単に美しい光景を作り出すだけでなく、気候変動という現代の重要な問題への意識を高める役割も果たしたのです。
フェミニズムと歴史の再解釈としてのインスタレーションアート
インスタレーションアートは社会的・政治的メッセージを伝える強力な手段としても機能してきました。その最も象徴的な例が、ジュディ・シカゴ(1939-)の《The Dinner Party》(1974-1979年)です。
この作品は、約400人のボランティアとともに5年間かけて制作され、1979年にサンフランシスコ近代美術館で初めて公開されました。
美術館の記録によれば、作品は一辺が14.63メートルの三角形のテーブルで構成されています。三角形は平等の象徴として選ばれました。テーブルには39人の歴史上および神話上の女性のためのプレートセッティングが並び、それぞれに精巧な刺繍が施されたランナー、金のカップと食器、そして陶器の皿が置かれています。
さらに、テーブルの下の床には999人の女性の名前が金色で刻まれており、合計1,038人の女性を讃える構成となっています。
シカゴがこの作品を制作した目的は、歴史の記録から消し去られてきた女性たちの功績を取り戻すことでした。各プレートセッティングは、その女性の時代や文化に応じた様式で制作されており、先史時代の女神から、エジプトの女王ハトシェプスト、詩人のエミリー・ディキンソン、活動家のスーザン・B・アンソニーまで、多様な女性たちが含まれています。
この作品は賛否両論を巻き起こしました。フェミニズム運動にとっての画期的な記念碑として賞賛する声がある一方で、ある米国の上院議員は「3D陶器ポルノグラフィー」と呼び、この作品を受け入れる予定だったコロンビア特別区大学への連邦資金提供を脅かすという事態も起こりました。
しかし、作品は6カ国16会場を巡回し、100万人以上が鑑賞する成功を収めました。2007年からは、ブルックリン美術館のエリザベス・A・サックラー・フェミニスト・アート・センターに常設展示されています。
《The Dinner Party》が示したのは、インスタレーションアートが教育的機能を持ち、社会変革のツールとなり得るということでした。シカゴは単に美しい作品を作るのではなく、書籍や教育資料と連携させることで、女性史の再評価という広範な運動を生み出したのです。
また、伝統的に「女性の仕事」とされてきた刺繍や陶芸といった工芸技術を高度な芸術表現として提示することで、芸術のヒエラルキーそのものにも挑戦しました。
