自分で作った劇団を崩壊させていく
自分で作った劇団を久部はその手で崩壊させていく。下手くそなリカを演出家の特権で贔屓し、自分の失態を大瀬になすりつける。大瀬のエピソードは『オセロー』のハンカチのエピソードをうまくアレンジしている。さらに劇団の売り上げをこっそり使い込む。支配人の大門(野添義弘)と妻・フレ(長野里美)を追い出した横領をそっくりそのまま自分も行いながら悪びれない。結局、どうにもならなくなって、リカにも見切られてしまう。リカは裕福な家に生まれたが没落してストリッパーに身を堕としており、電車で帰れるところ(小田急線・千歳船橋という絶妙)に実家がある久部とは相容れないと突き放す。しょせんは、八分坂は久部にとって外から来て野次馬的にちょっと覗き込んでいる者にすぎないということだ。
そんな久部に樹里は、シェイクスピアの戯曲に不要に思えるような役も出てくるのは、彼が劇団の座付き作家で、劇団員全員に役を与えなければいけなかったからで、「だからシェイクスピアの作品はあたたかい。どんなに悲しい話でもあたたかい」と彼女なりの論を語る。
最後に幻のように踊る二階堂ふみ
シェイクスピアと違い、自分のことしか考えていなかった久部は、劇団を解散することを決意する。『マクベス』にかけた「おとこから生まれた者」――「乙子から生まれた」蓬莱に劇場を託して。マクベスやオセローやハムレットのように陰惨な展開にはならなかった。八分坂を去っていく久部。そのとき、キラキラのネオンがひとつひとつ消えていく。そして、暗がりに最後に幻のようにリカが浮かび上がり、踊る。演劇ぽい!


