●「性的目的ではない」と主張
弁護人による被告人質問で、被告人は犯行動機について、入社前に提示された給与との相違や職務上のストレスがあったと供述した。一方で、なぜその不満やストレスがこのような行為につながったのかについては「わからない」とも述べた。
また、性的欲求を満たす目的ではなかったとし、いずれも夜勤時間帯による犯行で「スリルを楽しむような、味わうような」と説明した。
担当していた約20人の利用者の中で、特定の2人に対して犯行が集中した点については「(認知症の症状から)忘れるのではないかと思った」などと供述し、特定の人物を狙った性的犯行ではないと主張したが、非難が軽減されるものとは受け止めがたい内容だった。
被告人は事件後、弁償を試みたとも述べた。しかし、被害者の1人には親族がおらず、もう1人についても親族が弁償を拒否していたこと、さらに事件後に本人が亡くなっていることから、実際の弁償に至っていない。
この点は、裁判長が判決時に説示した「平穏な余生を送るはずだった被害者の尊厳を大いに損なうもの」という視点とも重なる。
●「寂しさを満たそうとしたのかも…」
検察官から改めて動機を問われても、被告人は「スリルを楽しむ」「(なぜかは)はっきり覚えていない」との供述を変えなかった。
一方、防犯カメラに残されていた「痛い」という被害者の声が頭に残り、罪の意識を感じていたとも述べたが、「行為が終わったら痛いと言わない」として、犯行を継続したことも明らかにした。
勤務先の聞き取りに語った「認知症のケアになる」という説明については、とっさの弁解だったと認めている。給与への不満についても「指摘したら辞めろと言われるかも」と、誰にも相談せずストレスを溜め込んでいたという。
検察官とのやりとりでは、次のようなものもあった。
検察官:犯行でストレス発散はできたのですか。
被告人:できていない。それでもなぜ続けていたか、わかりません。
検察官:事件から4カ月経ってますが、考えてないのですか。
被告人:考えても及ばない。
検察官:(聞き取り不完全・「性的目的は全くないのか」の趣旨の質問)
被告人:まったくないとは言い切れない。
検察官:どういう性的欲求を満たそうと?
被告人:射精もしてないですし、気持ちよくなるというのは違って、私の寂しさを満たそうとしたのかも…。
自身の性生活を誰にも相談できなかった環境や、幼少期に母親と離れて暮らした経験への思いにも言及したが、供述全体から、動機や内面を整理しきれていない様子がうかがえた。

