「警察への信頼」が音を立てて崩れる…全国の刑事裁判に及ぼす影響、佐賀県警科捜研の不正

「警察への信頼」が音を立てて崩れる…全国の刑事裁判に及ぼす影響、佐賀県警科捜研の不正

佐賀県警科捜研で発覚したDNA鑑定不正は、佐賀だけの問題では終わらない。

刑事司法の根幹である「科学鑑定の信頼性」も揺るがし、他の都道府県にも波及しうる構造的な欠陥が浮き彫りになっている。

佐賀県弁護士会「佐賀県警鑑定不正問題PT(プロジェクトチーム)」の半田望弁護士がその本質を読み解く。

●他の都道府県にも波及か

薬物事件やDNA鑑定がおこなわれた事件に限らず、多くの刑事裁判では科捜研の鑑定が検察官から証拠として提出され、裁判所も特に疑問を持たず証拠として採用し事実認定に利用していると考えられる。

科捜研による鑑定は、あくまでも捜査機関に付属する機関が作成するもので、裁判所が命じる嘱託鑑定ではない。そのため、鑑定書の証拠能力は刑事訴訟法321条4項の直接的な対象ではない。

ただし、科捜研の鑑定についても、その客観性や中立性、正確性が確保されていることを前提に、嘱託鑑定と同様に刑事訴訟法321条4項が準用されて、伝聞例外として扱われるのが通説的見解だ。

しかし、本件不正では鑑定結果の改ざんが7年余りにわたり見過ごされており、その原因も判然としない。このような状況ではもはや、捜査機関がおこなう鑑定に嘱託鑑定と同様の客観性が担保されているとは評価し難い。

さらに、佐賀県警の説明では、佐賀県警科捜研の鑑定は職員が単独でおこない、上司による精査も十分に機能していなかったことが発覚した。仮に佐賀県警の説明が真実であると仮定しても、このような構造は佐賀県警だけの問題ではなく、警視庁など他の都道府県警察でも同様と考えられる。

加えて、鑑定件数の増大に対して、人的・物的リソースが十分に整備されていない状況は、特に規模の小さな県警ほど顕著である。仮に当該職員の弁明が真実であったとしても、同様の不正が発生する温床が各地に存在すると考えるべきである。

これらの問題を踏まえれば、科捜研が作成する鑑定書全般について、刑事訴訟法321条4項の準用を正当化するだけの客観性や正確性が担保されていないと考えるほかない。

●「不正を隠蔽する体質が存在する」

佐賀県警は本件不正の発表について消極的であり、県議会決議でも情報公開に誠実性がないと批判された。また、当初から現在に至るまで、第三者による調査を一貫して否定する姿勢も看過できない。

佐賀県警が単独でこのような重大な問題について情報開示方針を定めたとは想定し難く、警察庁との調整のうえで方針が決められたとみるのが自然である。

もしそうであれば、警察庁をはじめとする警察組織全体が、重大な不祥事について第三者の視点による検証や積極的な情報公開に後ろ向きであり、不正を隠ぺいする体質が存在すると指摘されても仕方がない。

なお、警察庁による特別監察の中間報告では、鑑定不正がおこなわれた事件の罪名やDNA鑑定以外の証拠の有無・概要など、多少だが具体的な情報が公開された。これまでの佐賀県警の対応と比較すれば比較的マシな対応といえるが、現段階で不正の影響がなかったと断定するにはなお不十分である。

科捜研も警察組織の一部であり、道府県警によっては科捜研署長を警察官が兼務する(鑑識課長が兼任するなど)例もあるとされる。このような構造では、科捜研が組織として捜査機関から独立し、中立性を担保することは難しい。

本件不正が「上司からの評価」を気にしてされた可能性があると報じられているが、評価するのが警察官であればなおさらである。科捜研という組織としての中立性には限界があり、嘱託鑑定と同等の中立性を科捜研鑑定に求めることは困難である。

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