「警察への信頼」が音を立てて崩れる…全国の刑事裁判に及ぼす影響、佐賀県警科捜研の不正

「警察への信頼」が音を立てて崩れる…全国の刑事裁判に及ぼす影響、佐賀県警科捜研の不正

●公安委員会の委員は3人、調査機能なく

仮に公安委員会に第三者性が認められるとしても、佐賀県公安委員会の委員は3人であり、弁護士が1人含まれているものの、残りは刑事司法とは無関係な職業の委員だ。

また、弁護士は刑事司法の専門家ではあるが、DNA鑑定を含む科学鑑定に関して科捜研職員経験者や法医学の研究者のような専門的な造形があるとは言い難い。

そのため、佐賀県公安委員会が第三者として何らかの調査をおこなったとしても、結局は警察の調査結果をなぞるだけしかできず、本件不正の重大性・専門性に鑑み必要な調査機能を全うしたとはいえない。

民間で同様の不正がおこなわれた場合、独立した第三者機関(第三者委員会)による調査が求められることは現在のコンプライアンス水準からは当然である。

にもかかわらず、警察が第三者を入れず内部調査で完結させようとすることは、警察組織に現在のコンプライアンス水準が確保されていない証左であり、本件ではこのような警察の体質も強く批判されなければならない。

●組織的な不正防止は「もはや困難」

科捜研の鑑定については、過去にも2012年に和歌山県警科捜研での鑑定不正が発生したが、現在に至るまで不正防止のための全国レベルでの抜本的な解決策は講じられていない。本件不正と和歌山の不正を見ると、組織的な不正防止はもはや困難であるといえる。

科学的証拠の刑事司法での適正利用のためには、科捜研での勤務経験がある藤田義彦氏(元徳島文理大学教授)が指摘するとおり、警察組織から独立した第三者機関としての鑑定機関を設置することが喫緊の課題であるといえる。

また、その前提として、鑑定が適切にされたかを検証するため、捜査記録の保存と証拠の全面開示がなされる必要がある。

最後に、佐賀県弁護士会は冒頭に述べたとおり第三者機関による調査を求めており、筆者もその考えに全面的に賛同する。

第三者機関による調査がなされることが、これまで「捜査の秘密」に名を借りた警察組織の秘密主義を排し、真の意味で市民・国民に開かれた警察を実現する機会になると考える。

これまで警察は、佐賀県警に限らず市民や第三者の目を組織内に入れることを頑なに拒んできたが、そのような体質が身内の不正を発見できず、また発生した不正を隠ぺいするという組織風土を作り上げてきたといえる。

本件不正は科学的証拠が必要不可欠となった現在の刑事司法に対する重大な影響があることはもとより、警察組織への信頼が失われたことが重大な問題である。

佐賀県警や警察庁は、失墜した警察への信頼回復のために、旧弊にとらわれない英断をおこない、これを機に「風通しの良い警察組織」を実現することを願ってやまない。

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