●送検数に誤り、ずさんな佐賀県警の調査
初稿を脱稿した後、警察庁による特別監察の中間結果が公表された。その概要については可能な限り付記しているが、中間報告でもなお不明な点は残る。
今後の最終報告でどの程度の事実が明らかになるかは現段階では未知数であるが、これまでの特別監察の例からは再発防止策の公表にとどまり、原因究明や不正の影響の詳細が明らかになることは期待できない。
むしろ、中間報告では当初佐賀県警が公表した検察庁への送付件数に誤りがあったことが明らかになっており、佐賀県警の調査がずさんであったことが図らずも浮き彫りになった。
中間報告では検察官へ送付された事件のうち当初発表されていなかった7件については引き続き確認中であるとしている。
また、現在も捜査中の事件に関する鑑定25件と時効が完成した事件に関する鑑定9件についても、「本来、判明するはずの被疑者を判明させることができなかった」といった捜査への影響が生じていないかについては引き続き確認する、としており、中間報告段階で本件不正による捜査への影響がなかったと断定できないはずである。
●「事故が起きなかったからといって交通違反は免責されない」
佐賀家庭裁判所へ送致された1件について、裁判官の心証に影響を及ぼしたかどうかは佐賀家裁から回答を得られていない。
にもかかわらず、佐賀県警は捜査、公判に影響はなかったとの認識を維持している。佐賀家裁の対応は裁判官の職権の独立の観点から当然のものであって、捜査機関である佐賀県警や佐賀地検が公判への影響の有無を回答できるはずはない。公判への影響はなかったと即断したことに対しては疑問が残る。
本件を受けて、本田克也・筑波大学名誉教授は、佐賀県弁護士会でおこなった講演で、本件不正について「不正がおこなわれたことが問題であり、捜査や公判に影響がなかったとしても問題の重大性に変わりはない。結果的に事故が起きなかったからといって交通違反が免責されないのと同様、本件不正も結果オーライで終わらせてはいけない」と話す。
また、本田氏は本件不正がこれまでの警察捜査に対する信頼を根底から損なう重大なものであるにもかかわらず、全国的な反響が乏しいことについて懸念を表明されている。
本件不正の重大性を多くの国民が認識し、警察による不正の根絶とそのための透明性のある 調査や組織改革を求めることを期待したい。
【取材協力弁護士】
半田 望(はんだ・のぞむ)弁護士
佐賀県小城市出身。主に交通事故や労働問題などの民事事件を取り扱うほか、日本弁護士連合会・接見交通権確立実行委員会の委員をつとめ、刑事弁護・接見交通の問題に力を入れている。また、地元大学で民事訴訟法の講義を担当するなど、各種講義、講演活動も積極的におこなっている。
事務所名:半田法律事務所
事務所URL:https://www.handa-law.jp/

