ホルモンの過剰分泌は、目や首周り、皮膚や消化器など身体の様々な部位に特徴的な変化をもたらします。これらの変化は患者さん自身だけでなく周囲の方も気づきやすく、診断の手がかりとして重要です。眼球突出や甲状腺の腫大、皮膚の変化などについて具体的に解説していきます。

監修医師:
小坂 真琴(医師)
2022年4月~2024年3月、今村総合病院(鹿児島県鹿児島市)で初期研修を修了
2024年4月よりオレンジホームケアクリニック(福井県福井市) 非常勤医師として在宅診療を行いながら、福島県立医科大学放射線健康管理学講座大学院生として研究に従事
2025年10月よりナビタスクリニックに勤務
週1度、相馬中央病院 (福島県相馬市) 非常勤医師として内科外来を担当
甲状腺機能亢進症に特有の身体変化
甲状腺機能亢進症では、ホルモンの過剰分泌により特徴的な身体の変化が現れることがあります。これらの変化は診断の重要な手がかりとなり、患者さん自身や周囲の方が気づくきっかけになることもあります。
眼症状と甲状腺の腫大
バセドウ病に伴う甲状腺機能亢進症では、眼球突出が特徴的な症状として知られています。眼球が前方に押し出されることで、目が大きく見えたり、まぶたが完全に閉じにくくなったりすることがあります。この症状により、目の乾燥感や異物感を訴える方も少なくありません。朝起きたときに目がゴロゴロする感覚が続く場合は、眼科とともに内分泌内科の受診も検討する必要があるでしょう。
眼瞼後退という症状も現れることがあり、上まぶたが引き上げられて白目の部分が通常よりも多く見える状態になります。視線を下に向けたときに上まぶたが遅れてついてくる様子が観察されることもあります。鏡で自分の目を見たときに、以前と印象が変わったと感じる場合は注意が必要です。
甲状腺の腫大も重要な身体変化です。首の前面が全体的に膨らんだり、飲み込む動作で喉仏の下あたりに腫れを感じたりすることがあります。触診で柔らかく弾力のある腫れとして確認されることが一般的です。ネックレスやシャツの襟がきつく感じるようになったら、甲状腺の腫大を疑う必要があるかもしれません。
皮膚や消化器に現れる変化
皮膚の変化として、温かく湿潤した状態が持続することがあります。皮膚が滑らかになり、髪の毛が細く柔らかくなって抜けやすくなる症状もみられます。爪が薄くなり、剥がれやすくなることを訴える方もいるでしょう。こうした変化は美容面でも気になることが多く、皮膚科を受診する方もいますが、根本的な原因が甲状腺機能亢進症である可能性も考慮する必要があります。
消化器症状では、排便回数の増加や軟便傾向が現れることがあります。1日に数回の排便があり、以前と比べて便の性状が変化したと感じる場合は、甲状腺機能の評価が必要かもしれません。下痢が続くと脱水や栄養不足のリスクも高まるため、適切な診断と対処が求められます。
女性では月経不順が生じることがあり、月経量が減少したり周期が不規則になったりする変化がみられます。これらの症状は生殖機能にも影響を及ぼす可能性があるため、注意が必要です。将来的に妊娠を希望する方は、早めに婦人科と内分泌内科の両方を受診し、適切な治療を受けることが推奨されます。
まとめ
甲状腺機能亢進症は適切な診断と治療により、多くの場合で症状の改善が期待できる疾患です。動悸や体重減少、手の震えといった症状に気づいたら、早めに内科や内分泌内科を受診することが大切です。女性や家族歴のある方は特に注意が必要であり、定期的な健康チェックを心がけることが推奨されます。食事面ではヨウ素含有食品に注意し、バランスの取れた栄養摂取を心がけましょう。症状や治療について不安がある場合は、遠慮せず専門の医師に相談することをおすすめします。
参考文献
日本甲状腺学会「甲状腺疾患診療ガイドライン」 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
