更年期障害によるつらい症状に悩まされている方にとって、薬による治療は大きな助けとなる可能性があります。適切な薬物療法により、日常生活に支障をきたしていた症状が軽減し、より快適に過ごせるようになる患者さんは少なくありません。本記事では、更年期障害の治療に用いられる薬の種類や効果、副作用、治療中の注意点を解説します。

監修医師:
森 亘平(医師)
2019年浜松医科大学医学部医学科卒
[職歴]
2019年4月〜2021年3月仙台厚生病院初期臨床研修医
2021年4月〜12月石巻赤十字病院産婦人科
2022年1月〜2023年6月八戸市立中央市民病院産婦人科
2023年7月〜2024年3月東北大学病院産婦人科
2024年4月〜2025年3月宮城県立こども病院産科
2025年4月〜東北大学病院産婦人科/東北大学大学院医学系研究科博士課程
[資格]
日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医
厚生労働省指定緊急避妊薬の処方にかかるオンライン診療研修修了
厚生労働省指定オンライン診療研修 修了
JCIMELSベーシックコースインストラクター
[所属学会]
・日本産科婦人科学会
・日本周産期・新生児学会
・日本超音波学会
・日本人類遺伝学会
・日本産科婦人科遺伝診療学会
・日本DOHaD学会
・日本医療安全学会
更年期障害の治療法と薬の種類

更年期障害の主な治療法を教えてください
更年期障害は、こころや身体、社会的な要因が複雑に関与していると考えられています。更年期障害の治療は、卵巣機能の低下だけでなく、これらの因子が関与していることを考慮して行われます。
主な治療法は、カウンセリングや認知行動療法などの心理療法、生活習慣の改善、薬物療法などです。単独で行われることもあれば、複数を組み合わせて行われることもあります。薬物療法の代表的なものには、ホルモン補充療法(HRT)と漢方薬があります。また、そのほかにも精神症状にあわせて抗うつ薬などの薬物療法も検討されます。
更年期障害の治療にはどのような薬が用いられますか?
ホルモン補充療法(HRT)は、減少した女性ホルモンを補う薬を用います。更年期障害の原因は、エストロゲンがゆらぎながら減少していくことであるため、エストロゲンを補うことを目的とします。ただし、通常はエストロゲンだけでなく、黄体ホルモンを補う薬も組み合わせて投与します。これは、エストロゲン投与による子宮内膜がんや子宮内膜増殖症などのリスクを減らすことを目的としています。このため、手術で子宮を摘出した方の場合は、黄体ホルモンを併用する必要はなく、エストロゲン単独療法が行われます。HRTで使用する薬剤の種類は、飲み薬、貼り薬、塗り薬、腟錠などさまざまなタイプがあります。患者さんの状態やライフスタイルに合わせて、医師と相談しながら選択します。
更年期障害の多様な症状に対して、漢方薬も使用されます。また、気分の落ち込みやイライラ、不眠、情緒が不安定であるなど精神症状が強い場合に、SSRIやSNRIなどの抗うつ薬や睡眠薬、抗不安薬が使用されるケースもあります。
更年期障害の治療薬の効果を教えてください
更年期障害は、ほてり、のぼせ、ホットフラッシュ、発汗などがみられ、これらは血管運動症状と呼ばれます。HRTは、特にこの血管運動症状に対して効果があるといわれています。さらに、更年期を過ぎると心臓や血管の病気が増える傾向にあります。HRTはこのような病気の予防にも効果が期待されています。また、閉経後に進行する骨密度の低下を防ぎ、骨粗鬆症の予防にもつながるといわれています。
そのほかにも、萎縮性膣炎や性交時の痛み、膀胱炎、頻尿などの症状や、脂質異常症が改善される可能性があります。
漢方薬は、それぞれの薬剤で効果が異なります。不安や不眠などの精神症状や、腹部症状など、個別の症状にあわせてどの漢方薬を使用するか検討されます。それぞれの症状への効果が期待されます。また、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬も、気分の落ち込みや不安、不眠などそれぞれの症状の軽減に役立ちます。特にSSRIやSNRIは更年期障害特有の症状(ほてりや発汗)の改善に効果があるといわれています。
更年期障害|薬の副作用と付き合い方

更年期障害の薬にはどのような副作用がありますか?
HRTの薬を開始した初期の頃は、乳房や下腹部の張り、吐き気、頭痛、不正性器出血が起きることがあります。しばらく経過すると軽くなることが少なくありません。副作用の程度には個人差があり、症状が強い場合や長引く場合は、投与方法や投与量の調整が検討されます。
また、ホルモン補充療法を5年以上続けた場合、治療しなかった方に比べて乳がんのリスクがわずかに上昇します。ただし、喫煙、アルコール摂取、肥満などの生活習慣による乳がんのリスク因子と同程度かそれ以下であることがわかっています。また、併用する黄体ホルモン製剤の種類でリスクが異なるといわれています。
漢方薬も副作用がまったくないわけではありません。まれに、胃腸の不快感、下痢、発疹、電解質異常などが現れることがあります。
更年期障害の薬を服用する期間の目安を教えてください
更年期障害の治療期間は、症状の程度や患者さんの状態によって大きく異なります。HRTの継続に関して、年齢や投与期間で一律の決まりはありません。海外の研究では、HRTを5年以上継続した場合に乳がんのリスクが上昇するとの報告もあります。しかし、このことでHRTを5年でやめなければならない、わけではないとされています。HRTを続ける間は、乳がん検診を定期的に受けるようにします。治療を継続するかどうかは、症状の改善状況、副作用の有無などを総合的に判断して決定します。
更年期障害の薬を飲み続けても安全ですか?
適切な管理のもとで服用すれば、更年期障害の薬を長期間飲み続けることも可能とされています。ただし、定期的な検診や評価がたいへん重要です。定期的に乳がん、子宮頸がん・子宮体がんの検診が必要です。また、血圧測定、血液検査も定期的に行い、薬物による副作用がないかを確認します。すべての薬剤に副作用のリスクがあり、長期間にわたると副作用がみられる可能性もあります。薬を飲み続けるかどうかは、主治医とよく相談して決定しましょう。
更年期障害の薬を服用する際の注意点を教えてください
HRTの薬は、必ず医師の指示どおりに服用してください。子宮のある方が自己判断で1種類の薬しか使わないなど、投与方法を間違えると子宮体がんの危険性が増加する可能性があります。また、自己判断で中止することもやめましょう。

