習慣的な飲酒は、目に見えない形で身体に負担を蓄積させていきます。特に肝臓や心血管系は、長期的なアルコール摂取により深刻なダメージを受けやすい臓器です。脂肪肝から肝硬変への進行、高血圧や心筋症といった循環器疾患のリスク上昇など、適量を守っていても少しずつ影響が現れることがあります。これらの変化は初期段階では自覚症状に乏しいため、予防的な意識を持つことが大切です。
監修医師：
小坂 真琴（医師）
2022年4月～2024年3月、今村総合病院（鹿児島県鹿児島市）で初期研修を修了
2024年4月よりオレンジホームケアクリニック（福井県福井市） 非常勤医師として在宅診療を行いながら、福島県立医科大学放射線健康管理学講座大学院生として研究に従事
2025年10月よりナビタスクリニックに勤務
週1度、相馬中央病院 （福島県相馬市） 非常勤医師として内科外来を担当
長期的な身体への影響と健康リスク
日常的に飲酒を続けていると、短期的にはわかりにくくても、長い目で見ると体のさまざまな器官に負担がかかります。適量を守っていても、少しずつ負荷が積み重なり、知らないうちに病気のリスクが高まっている場合もめずらしくありません。ここでは、特に影響を受けやすい肝臓や心臓といった臓器について、長期飲酒がどのような変化をもたらすのかを説明します。
肝臓への負担と肝疾患のリスク
肝臓はアルコールを分解する主要な臓器であり、長期的な飲酒により最も影響を受けやすい臓器の一つです。ただし、肝臓は痛みを感じる神経が少ないため、不調があっても自覚しにくいという特徴があります。だからこそ、長期的な飲酒は“気づかないうちに進む”のが大きな問題です。まず初期段階で現れやすいのが、脂肪肝です。これは肝細胞に脂肪が蓄積した状態で、多くの場合は自覚症状がありません。そのまま飲酒を続けると、アルコール性肝炎へと進行する可能性があります。アルコール性肝炎では、倦怠感や黄疸、腹痛といった症状が現れることがあります。症状が強い場合は入院が必要になることもあり、決して軽く扱えない病気です。
さらに進行すると肝硬変に至ります。肝硬変は肝臓の組織が線維化して硬くなり、肝臓本来の働きが損なわれた状態です。肝硬変になると元の状態に戻すことは難しく、腹水や静脈瘤、肝性脳症といった重い合併症を引き起こすリスクが高まります。また、肝硬変は肝臓がんの発生リスクを大幅に上昇させることでも知られています。また、近年肝硬変でないばあいもアルコールによる脂肪肝では肝臓がんが発生するともいわれており、より一層危険性をはらみます。
心血管系への影響
アルコールの影響は肝臓だけでなく、血管や心臓といった循環器系にも及びます。アルコールは血管を一時的に広げる作用がありますが、代謝の過程で心拍が上昇し、その後反動で血圧が高くなる傾向があります。日常的に飲む習慣があると、その影響が積み重なり、慢性の高血圧へとつながっていきます。高血圧は脳卒中・心筋梗塞の大きなリスク因子です。また、長期的な大量飲酒は心筋症を引き起こすことがあります。アルコール性心筋症では、心筋（心臓の筋肉）が弱まり、体に血液を送り出す力が落ちてしまう状態で、息切れ、むくみ、動悸、疲労感といった心不全の症状が現れます。さらに、アルコールは不整脈、特に心房細動のリスクを高めることが報告されています。心房細動は脳梗塞の原因となる血栓を形成しやすくするため、見逃せないリスクです。
まとめ
アルコール飲料は適切に利用すれば、生活に彩りを添える嗜好品となりますが、その作用や影響を正しく理解していないと、健康を損なうリスクがあります。本記事で解説したように、アルコールは中枢神経系に作用し、身体的・精神的にさまざまな影響を及ぼします。依存症は誰にでも起こり得る疾患であり、早期発見と適切な対処が重要です。自分の飲酒習慣を定期的に見直し、気になる点があれば早めに医療機関や専門機関に相談することをおすすめします。
参考文献
厚生労働省「アルコール健康障害対策」
国立病院機構 久里浜医療センター「アルコール依存症について」
e-ヘルスネット(厚生労働省)「アルコールの吸収と分解」
国立精神・神経医療研究センター「薬物・アルコール関連障害」
