3章【松本竣介と綜合工房 手作りのネットワーク】
松本竣介《N駅近く》 1940年 東京国立近代美術館
新宿の落合やその周辺(目白・中井など)には、中村彝や佐伯祐三をはじめとする画家や文学者が集まり、のちに「目白文化村」「落合文士村」として受け継がれました。さらに隣接する池袋でも、1930年代に多くの芸術家が集まり、各地にアトリエ村が誕生。これらは「池袋モンパルナス」と総称されます。松本竣介をはじめ、靉光、麻生三郎、鶴岡政男、寺田政明らが中心的な存在でした。
松本は下落合にアトリエ付きの自宅「綜合工房」を構え、雑誌『雑記帳』を通じて文化人との交流を広げます。1943(昭和18)年には新人画会を結成し、戦中も静かな風景画を描き続けました。本章では、松本竣介を軸に、綜合工房や九室会、新人画会に集った作家たちの活動を紹介します。
4章【阿部展也と瀧口修造 美術のジャンルを越えて】
芥川(間所)紗織《女》 1954年 板橋区立美術館
1948(昭和23)年、阿部芳文は第1回モダンアート展を機に阿部展也と改名し、下落合に居を構えると以後、彼のもとには多くの芸術家が集まります。1953(昭和28)年には評論家・美術家の瀧口修造が西落合に移り、福島秀子や写真家・大辻清司らが彼のもとで「実験工房」を結成。絵画・写真・音楽・映像・舞台・詩など、ジャンルを超えた活動を展開しました。阿部には芥川(間所)紗織や宮脇愛子らも師事しています。
阿部と瀧口の共作『妖精の距離』(1937[昭和12]年)は、日本における初期シュルレアリスムの代表作として知られています。この作品を起点に、新たな表現を追求した彼らと同時代の作家たちを紹介します。
エピローグ【新宿と美術の旅はつづく】
清宮質文《深夜の蝋燭》 1974年 茨城県近代美術館 照沼コレクション
本展の物語は、中村屋から始まります。水戸に生まれ、新宿で創作に生きた中村彝。一方、エピローグで紹介する清宮質文は新宿に生まれ、水戸に眠る画家です。清宮の版画には、儚さと追憶が静かに息づき、見る者に内省を促します。中村彝から清宮質文へ。50年にわたる新宿と水戸をめぐる物語を、清宮の静謐な版画で締めくくります。
