●「出所してくるのが通例」は過去の話
死刑に関する資料をまとめているNPO「CrimeInfo(クライムインフォ)」のウェブサイトによると、記録が残る1966年以降、仮釈放された無期受刑者が「0〜1人」という年は確認できない。
2024年末時点で、全国の刑事施設に収容されていた無期懲役の受刑者は1650人だったことから、無期懲役囚にとって仮釈放がいかに現実味の薄い制度になっているかがうかがえる。
2019年に、大阪府の吉村洋文知事がツイッター(現X)で「日本の無期懲役は、終身刑と異なり、一生刑務所ではなく、出所してくるのが通例」と投稿し、話題になった。しかし、現在の運用を見る限り、そうした認識はもはや当てはまらない。
記者が継続的に取材している受刑者の中には「無期懲役は死刑よりもきつい」「仮釈放がわずかな望み」と語る人もいる。

●「マル特無期」の影響も?
こうした状況から、日本の無期懲役刑は事実上「終身刑」化しているとの指摘もある。
山上被告人は現在45歳。仮に求刑どおり無期懲役刑が言い渡され、そのまま確定する場合、現在の運用が今後も続く限り、少なくとも75歳を超えるまでは出所できない計算になる。
さらに、もう一つの要素として挙げられるのが「マル特無期(まるとくむき)」と呼ばれる通達の存在だ。
これは、1998年に最高検が出した通達のことで、「無期懲役刑受刑者の中でも特に犯情等が悪質な者」を「マル特無期」に指定し、「従来の慣行等にとらわれることなく、相当長期間にわたり服役させることに意を用いた権限行使等をすべきである」として、全国の検察庁に求めたものだ。
通達によると、無期懲役の判決が出た事件について、検察庁は「マル特無期」に該当するかを協議し、指定した場合には、事件の概要や指定理由などをまとめた記録を作成する。
この記録は、仮釈放を申請する刑務所や、仮釈放の可否を判断する地方更生保護委員会から意見を求められた際、検察庁がより慎重な対応をとるための資料として用いられるという。

