胃潰瘍は、胃の粘膜が胃酸などの消化液によって深く傷つくことで起こる病気です。ピロリ菌感染や痛み止め(NSAIDs)の長期使用、過度なストレス、喫煙、飲酒などが発症の主な要因です。初期はみぞおちの痛みや胃もたれ程度の症状から始まりますが、悪化すると出血や穿孔(穴があく状態)を伴うこともあります。内視鏡検査による早期発見と薬物療法の進歩により、ほとんどの方が内服治療で改善できるようになっています。しかし、症状が軽くても放置すると再発を繰り返したり、命に関わる合併症を起こしたりすることがあります。
この記事では、胃潰瘍の原因や治療法、使用される薬の種類、治療中・治療後の生活の工夫を解説します。

監修医師:
林 良典(医師)
消化器内科
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胃潰瘍治療の基本

胃潰瘍の原因と主な症状を教えてください
胃潰瘍は、胃酸やペプシンと呼ばれる消化酵素が粘膜を傷つけ、深い潰瘍を形成する病気です。主な原因は、ピロリ菌感染と痛み止め(NSAIDs)の長期使用です。ピロリ菌は、胃の中で生き残るためにウレアーゼという酵素を産生し、この働きによってアンモニアが作られます。アンモニアは胃酸を中和して菌にとって過ごしやすい環境を作り出しますが、同時に胃粘膜を刺激し、炎症を引き起こしやすくします。
一方、NSAIDsはロキソプロフェンやイブプロフェンなどに代表される薬で、痛みや熱を和らげるために広く使われています。これらの薬は胃を守るための物質(プロスタグランジン)の働きを弱める特徴があり、粘膜が傷つきやすい状態をまねきます。加えて、精神的な負担、喫煙、過度の飲酒、食事時間の乱れなども胃に負担をかけ、症状を悪化させる要因です。
主な症状はみぞおちの痛み、空腹時や夜間に強まりやすい痛み、胃もたれ、吐き気、食欲の低下などです。進行すると、吐血や黒色便がみられ、出血を示すサインとなることがあります。
胃潰瘍は自然に治りますか?
胃潰瘍は、傷ついた部分が深いため、放っておいて自然に治ることは少ないです。胃では毎日胃酸がつくられており、その刺激が続くかぎり、粘膜が回復する前に再び傷ついてしまいます。痛みがよくなったように感じても、実際には内部の傷が残っていることが多く、治療を受けずにそのままにしておくと、潰瘍が深く進んでしまうおそれがあります。
胃潰瘍は痛みが消失しても治療する必要はありますか?
痛みが軽くなっても、潰瘍の傷は完全には治っていないことが多いです。自覚症状と実際の潰瘍の改善にはずれがあるため、症状が落ち着いた段階で治療を中止すると再発の原因になります。症状が改善しても少なくとも8週間程度の薬物治療を継続し、治癒の確認を内視鏡で行うとよいです。特にピロリ菌感染がある場合は、除菌治療を行うことで再発を防ぐことができます。
胃潰瘍の主な治療法と薬の種類

胃潰瘍の主な治療法を教えてください
胃潰瘍の治療は、まず原因をできるだけ取り除き、胃酸分泌を抑える薬を使って胃酸の刺激を弱めながら粘膜が回復しやすい状態をつくることが基本です。治療の中心は薬で、多くの方は通院しながら進められます。
ピロリ菌が関係している場合は、抗菌薬と胃酸をしっかり抑える薬を組み合わせた除菌療法を行います。通常は1週間程度の内服で菌を減らし、その後の再発を防ぎやすくします。
NSAIDsが原因の潰瘍は、今使っている薬を続ける必要があるかどうかを医師と相談し、可能であれば中止や変更を検討します。同時に、胃を守る薬を併用して粘膜への負担を減らします。
胃潰瘍で入院や手術が必要になることはありますか?
多くの潰瘍は薬で治りますが、出血や穿孔を起こした場合は入院が必要です。出血性潰瘍は内視鏡的止血術を行い、再出血防止のために薬物療法を継続します。胃に穴があいた場合や重度の出血が止まらない場合には、手術を検討します。
胃潰瘍で用いられる主な薬の種類を教えてください
主な治療薬には、胃酸分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)やカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)があります。これらは潰瘍の治癒を早め、再発を防ぎます。さらに、胃粘膜を守る粘膜保護薬(レバミピド、スクラルファートなど)や、胃の動きを整える消化管運動改善薬を併用することもあります。
胃潰瘍の治療薬にはどのような副作用がありますか?
PPIやP-CABは安全性の高い薬ですが、長期使用で下痢、腹部膨満感、低マグネシウム血症などが生じることがあります。また、抗菌薬を用いた除菌療法は、下痢や味覚の変化がみられることがあります。副作用が疑われる場合は、自己判断で中止せず、医師に相談して薬を調整しましょう。

