夫婦カウンセリングを訪れるカップルが急増しています。コロナ禍のステイホームやリモートワークの普及により、パートナーへの不満から目を逸らしにくくなってきたことも要因のひとつだと『夫婦はなぜ壊れるのか』の著者は言います。病気の妻にから揚げが食べたいと言ってしまう夫から、実家に尽くし過ぎる妻まで。夫も妻も、なぜみすみす関係を悪化させるような言動をとってしまうのか。その背景を本書から抜粋して紹介していきます。別居や離婚を考えながらも揺れている方はもちろん、家庭内が以前に比べてギスギスしていると悩んでいる方まで、関係改善のヒントが得られる1冊です。前編はこちらです。
(本文中の事例はすべて仮名であり、事実を元にしたフィクションです)
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妻の実家を毛嫌いする夫 親と仲が良過ぎる妻
相談に来たのは繁さん(44歳)と貴子さん(43歳)。まず口を開いたのは貴子さんでした。
「夫が私の実家を毛嫌いするのに困っているんです」
夫の繁さんが、貴子さんの実家に寄り付かないんだそうです。
「結婚して15年になりますが、夫が私の両親に会ったのは3回だけです」
確かに、少ないように思えます。
「車で1時間くらいと近いのに、お正月も行きませんし、両親が息子に会いたがっていると言っても一緒に行かないので、私が一人で息子を連れて行っています」
「どうして、貴子さんの実家に行かないんですか?」
私は繁さんにストレートに聞きました。
「行く必要がないからです。妻が言ったように、息子は妻が連れて行けばいいし、正月も妻と息子で行っているので、僕が行く必要はないでしょう」
繁さんはきっぱり言います。
「必要はないかもしれないですけど、毎回聞かれるんです。父から『なんで繁君は来ないんだ?』って。仕事が忙しいって言ってますけど、お正月もずっと行ってないので、そろそろこの言い訳も限界だと思って。母も薄々気づいていて『私たちの事が嫌いなんじゃない?』って言います」
貴子さんはため息をつきます。
「せめてお正月だけでも。日帰りで行ける距離なので、数時間顔を出して一緒におせち食べてくれればいい、って何年もお願いしているんですけど」
繁さんは黙ったままです。ここから先の話は別々に聞いた方がいいだろうと思い、初回でしたが、貴子さんに少し席を外してもらうようお願いしました。繁さんと2人になり、私は改めて尋ねました。
お金や育児の不満が義理の両親に筒抜け
「貴子さんの実家に行きたくない理由、教えて頂いてもいいでしょうか?」
「妻の父親が苦手なんです」
と言い、「これは妻にも言っています」と付け加えました。繁さんが貴子さんの父親が苦手な理由は、一番はその生き方なんだそう。
「妻の父は働いていないんですよ。遺産の不動産収入があるのと、株である程度稼いでいるので。そういう生き方もあるんでしょうけど、妻が子どもの頃はそれだけでは生活していけなくて、お義母さんが頑張って働いていたそうなんです」
繁さんは「それもありなんでしょうけど」と言った後、
「でも義父は僕に対して『もっと頑張って稼がないとだめじゃないか』と言うんです。働いてない人がですよ? 失礼だと思いませんか?」
と、顔をしかめました。そして続けます。
「妻も『お父さんのあの発言はおかしいと思う』と言ってくれていますが、妻は妻で、お金の事でお義母さんに愚痴を言ってるみたいなんです」
繁さんは一度ため息をつき、さらに続けます。
「お義母さんから『貴子にお金の苦労させないでね』って言われた事があるんです。確かにうちは裕福ではないですけど、妻も働いていますし、苦労なんかさせてません」
「なぜ貴子さんはお母さんにそんな話をするんでしょうか」
私が尋ねると、繁さんは吐き捨てるように言いました。
「確かに、転職する前は貴子よりも僕の方が給料は安かったですけど。でも、貴子は僕の悪口を言いたいんだと思います」
「悪口?」
私の質問に、繁さんは苦笑しながら答えます。
「妻は、僕と夫婦喧嘩になると実家に帰るんです。毎回じゃないですけど。帰らなくてもお義母さんに必ず電話します。内容は聞こえないけど、僕の悪口でしょうね」
それは、嫌だろうと思いました。自分の聞こえない所で妻が実家の両親に自分の悪口を言っている。繁さんが貴子さんの実家に行きたがらない理由の一端が見えました。
「どんな事で喧嘩になるんですか?」
「一番は僕の帰宅時間ですね。転職したばかりで、今、頑張りどころなんですよ。妻も転職には賛成したし、帰る時間が遅くなるのは話してあったんです。でも、『料理をしながら子どもの面倒を見るのが大変だから早く帰って来て欲しい』って仕事中にも頻繁にLINEが来るんです。仕事中なのでいつも返事が出来る訳じゃないのに、返事しないとそれも怒るんです。でも、おかしくないですか? 妻の両親から、もっと働け、もっと稼げって言われているから頑張ってるのに。あと、朝起きない事も文句を言われますね。でも、夜中の2時3時に帰るので、朝6時半に起きろって言われても厳しいですよね」
確かにそれはきついかもしれません。それでは、と私が話を終えようとすると繁さんが口を開きました。
「一番嫌なのは、妻の両親から、結婚して妻の性格が変わった、と言われる事です」
「性格?」
私が尋ねると、繁さんは頷き、
「『うちの娘は結婚前はもっと明るい子だった』とか。『いつも悩んでるみたいで心配だ』とか。『実家に来る時も電話でもいつも泣いている』とか。僕のせいみたいに言われるんです。だから妻の実家に行けばまた色々責められるだろうと思うので、行きたくないんです」
それはきっとそうだろう、と思える理由でした。
「今は育児を手伝えない状態ですか?」
貴子さんのワンオペになってしまっているとしたら、彼女の負担はかなり大きくなっているはずなので、私は確認しました。
「平日は難しいですけど、休みの日は出来る限り子どもと過ごしています。貴子が一人で出かける時間も作っているし。朝も、頑張って起きて子どもの準備を手伝うようにはしています」

