「毎日が恐怖です」クマ出没エリアから都心へ通勤 ケガしたら労災になるのか?

「毎日が恐怖です」クマ出没エリアから都心へ通勤 ケガしたら労災になるのか?

通勤中にクマに出会って怪我をしたら、労災になるのでしょうか?ーー都内のIT企業で働く40代男性のKさんから、そんな相談が弁護士ドットコムニュース編集部に寄せられました。

Kさんは、東京都の多摩西部の町村部から毎日片道2時間かけて都心部に通勤しています。「家の近くではクマも出没情報が増えており、自宅から駅までの徒歩15分の道のりでクマに出会わないか。毎日が恐怖です」。そう不安を語ります。

実際に、クマを見かけたこともあるそうで、もし襲われて怪我をしたら労災になるのかも気になるそうです。通勤中にクマに襲われた場合、労災として認められるのでしょうか。

●「通勤災害」と認められるための要件とは

通勤中に負った災害は、「通勤災害」として労災保険給付の対象となる場合があります(労働者災害補償保険法7条参照)。

給付の要件として、まず、その移動が「通勤」の定義に当てはまらなければなりません。

「通勤」とは、住居と就業の場所との往復などを「合理的な経路及び方法」により行うことを指します。移動の途中で私的な用事のために著しく遠回りをしたり(逸脱)、移動を止めたり(中断)した場合は、通勤とは認められなくなる可能性があります。

今回のKさんの場合、出社、退社の際に自宅から駅までの通常の経路を移動している最中であれば、この「通勤」の要件は満たすと考えられます。

●クマの襲撃は「通勤に通常伴う危険」といえるか

次に、その災害が「通勤による」ものでなければなりません。ご相談のケースでは主にこの要件が問題となると思われます。

「通勤による」と認められるためには、経験則上通勤と災害との間に相当因果関係があること、すなわち通勤に通常伴う危険が現実化したものである必要があります。

たとえば、通勤中の交通事故や駅の階段からの転落、歩行中の落下物による負傷などは、通勤に通常伴う危険が現実化したものとして、一般に「通勤による」と認められます。

通勤そのものに伴う危険とはいえないとして、通勤災害と認められなかった例として、通勤途中に第三者により計画的に殺害された場合などが挙げられます(「大阪南労基署長事件」大阪高裁平成12年(2000年)6月28日判決)。

では、クマによる襲撃はどうでしょうか。これは場所や状況によって判断が分かれる可能性があります。

たとえば、東京都のJR新橋駅で乗り換え中に突如クマに襲われたとしたら、それは(2025年12月時点では)通常想定される危険とは言い難く、労災認定は難しいかもしれません。

しかし、Kさんが住む多摩西部のように、クマの目撃情報が増えており、実際に遭遇するリスクがある地域においては、クマとの遭遇は「通常通勤に内在する危険」といえる可能性があります。

したがって、Kさんが通常の通勤経路でクマに襲われた場合、「通勤による」と認められ、通勤災害と認められる可能性があると考えられます。

参考文献:「労働法 第十三版」(弘文堂、菅野和夫、山川隆一)

監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)

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