●逮捕まではされない?
本条は5万円以下の罰金となっており、それほど重い罰則が科せられるわけではありません。そこで、現実問題として、逮捕されたり、(略式)起訴されたりという事態にはなりにくいとは思います。
具体的な事例を探してみたのですが、撮影のために車道に出て交通の妨げになった、ということだけで処罰されている事例は見つかりませんでした。罰金刑だと仮に起訴されるとしても略式起訴となることがほとんどであると考えられ、判例集などに掲載されるような事例にはなりにくいということもあるでしょう。
逮捕された例としては、2019年3月ころ、スクランブル交差点でベッドを置いて撮影を行ったYouTuberが、道路使用・交通妨害の疑いで書類送検された例や、2018年2月ころ、京都大学の大学院生らが道路にコタツを置いて座り込んだ事例などがあります。
実際に裁判になった例としては、大阪地判昭和56年(1981年)5月15日(労働争議の際に道路上に座り込むなどした行為につき、76条4項違反とされたケース)など、いくつかが挙げられます。
こうした例と比べると、赤信号とはいえ、横断歩道上に撮影のためにとどまる行為では逮捕される可能性までは低いといえるでしょう。
ただ、こうした撮影行為は、違法行為であることには変わりがなく、近年社会問題となっているため、今後逮捕などがされることがあっても不思議ではありません。
なお、刑事訴訟法には、一定の軽微な犯罪については、「犯人の住居・氏名が明らかでない場合」や「逃亡のおそれがある場合」でなければ、現行犯逮捕できないという規定があります(217条)。
しかし、道路交通法76条4項違反はこの対象にはなっておらず、現行犯逮捕も理論上は可能であることにも注意が必要です。
また、逮捕されなくとも、警察署への「任意同行」を求められる可能性はあります。「任意」とはいえ、現場の混乱を防ぐために強く同行を求められれば、事実上拒否することは難しいでしょう。
その場合、所轄の警察署(この場合は麻布警察署など)に連れて行かれ、供述調書の作成などで数時間、場合によっては半日近く拘束されることになります。
●歩行者には「青切符」制度がない
歩行者による道交法違反の場合、自動車による場合よりも、手続き的には「重い」可能性があります。
車のドライバーが道交法違反をした場合、「交通反則通告制度(いわゆる青切符)」があり、反則金を納付すれば刑事手続きには進みません。しかし、歩行者の違反には、この青切符の制度が存在しません。
そのため、歩行者が道路交通法違反で検挙されれば、直ちに刑事手続きに入ることになります。
具体的には、警察で調書を取られ、検察庁へ書類送検され、最終的には裁判所から「略式命令」などで罰金刑を受けるという流れです。つまり、きれいな写真を撮るために、前科がつくリスクがあります。
監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)

