
きらびやかなショーウィンドウの裏側には、想像を絶する闇が広がっていることがある。 アパレル業界で約10年間のキャリアを持つゆき蔵(@yuki_zo_08)さんは、自身の経験をベースにした実録漫画で、その過酷な実態を描き続けている。



特にゆき蔵さんが配属されていた店舗は、いわゆるブラックな体質が色濃かった。売り上げさえ立てていれば何をしても許される店長が支配しており、独自の理不尽なルールやパワハラが横行。 「お金を落としてくれるなら、どんな人間だろうと『お客様』だ。責任を持って対応しろ」。 そんな拝金主義を貫く店長の下では、「スタッフが客からのストーカー被害に遭っても助けを求めることすら許されなかった」という。今回は、そんな環境下でゆき蔵さんを数カ月にわたって苦しめた、ある戦慄のエピソードを紹介する。
■「素敵な旦那様」が「妄想ストーカー」へ豹変するまで
問題の男性客が初来店した際、その印象は決して悪いものではなかった。 「妻への誕生日プレゼントを探している」と語る彼は、ごく普通の良識ある人物に見えた。「奥様思いの素敵な旦那様だな」と、ゆき蔵さんも感心したほどで、ヤバい客になる予兆など微塵もなかったのだ。
しかし、歯車が狂い始めたのは2度目の来店時だと思われる。奥様同伴で訪れた彼に対し、ゆき蔵さんが行った何らかの接客対応が、彼の中で何かを歪ませてしまったのかもしれない。 3回目の来店時には、男性の態度は明らかに異様なものへと変貌していた。「僕たちの関係は、妻には内緒だから」――。 そんな事実無根のセリフを吐き、あたかもゆき蔵さんと不倫関係にあるかのような口ぶりで迫ってきたのだ。
■加速する狂気、見て見ぬふりの店長
おそらく、ゆき蔵さんの営業トークや褒め言葉を「自分への好意」だと都合よく脳内変換してしまったのだろう。 それ以降、男性は買い物をするわけでもないのに店舗の前を執拗にうろつくようになる。その異常行動は周囲のスタッフも気づくほどで、「あの人のヤバさ、加速してますよ」「放置して大丈夫なんですか?」と心配の声が上がるほど危険度は増していった。
ゆき蔵さんの精神は限界を迎え、得意の営業スマイルすら作れなくなってしまう。しばらくは男性客全般が怖くて仕方なくなるほどのトラウマだったと、ゆき蔵さんは当時を振り返る。 しかし、売り上げ至上主義の店長は、この状況を黙認し続けた。
■孤立無援の現場を救った「姉御肌の係長」
追い詰められたゆき蔵さんに救いの手を差し伸べたのは、自店の店長ではなく、テナントが入っているA百貨店の「係長」だった。 立場上は取引先にあたる人物だが、婦人服フロアのまとめ役を担う彼女は、一本筋の通った姉御肌。さらに上の役職である課長がいるにもかかわらず、フロア全体が彼女を慕うほどの人望の持ち主だったという。
ブラックな直属の上司が見捨てる中で、他社の管理職が守ってくれるという皮肉な展開。この係長がいったいどのような神対応でストーカー客を撃退したのか。そのスカッとする結末は、ぜひ漫画本編で確かめてほしい。
ゆき蔵さんのブログ「ゆき蔵さんぽ。」では、この他にも迷惑客やクレーム対応など、接客業経験者なら共感必至のリアルなエピソードが多数公開されている。
取材協力:ゆき蔵(@yuki_zo_08)

