配偶者の愚痴を親に言うことの弊害について|山脇由貴子

配偶者の愚痴を親に言うことの弊害について|山脇由貴子

夫婦カウンセリングを訪れるカップルが急増しています。コロナ禍のステイホームやリモートワークの普及により、パートナーへの不満から目を逸らしにくくなってきたことも要因のひとつだと『夫婦はなぜ壊れるのか』の著者は言います。病気の妻にから揚げが食べたいと言ってしまう夫から、実家に尽くし過ぎる妻まで。夫も妻も、なぜみすみす関係を悪化させるような言動をとってしまうのか。その背景を本書から抜粋して紹介していきます。別居や離婚を考えながらも揺れている方はもちろん、家庭内が以前に比べてギスギスしていると悩んでいる方まで、関係改善のヒントが得られる1冊です。前編はこちらです。

(本文中の事例はすべて仮名であり、事実を元にしたフィクションです)

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親との関係が良好だったからこその弊害

繁さんは両親と妹と弟の5人家族。父親はサラリーマンで精力的に働くタイプ。休みの日も接待ゴルフなどでいない事も多かったけれど、真面目で尊敬していたと言います。

「たまの休みには遊んでくれましたし、キャンプなんかも家族で行ってました」

母は専業主婦。弟妹の世話もあって家でも忙しく働いていたそう。両親共に温厚な性格で、夫婦仲も良好だったと言います。父親は「自分の事は自分で決めなさい」と言うタイプで、小学生の頃から自分で考えて決める癖がついたそう。

「突き放されているというより尊重してくれているな、信頼してくれているんだな、と思ってました」

繁さんが決めた事には反対しない。それが両親の姿勢だったようです。

「だから、妻がしょっちゅう実家に帰ったり、母親に電話しているのを見ると『甘えてるな』『いつまで親を頼るんだ』って思ってしまうんです。夫婦の問題なんだから、夫婦で解決すべきじゃないですか。それなのに親を頼って、僕に対して説教させるなんて」

繁さんの心理テスト結果からは、親との葛藤は認められず、依存心や愛情欲求もなく、精神的に自立している事が分かりました。他人と安定した信頼関係を築ける力があり、対人関係も問題がありません。貴子さんと息子にはしっかりとした愛情がありますが、貴子さんに対しては少し怒りと不信が認められます。不信といっても、「自分よりも親を頼っている」という事への不安に近いものです。

貴子さんは一人っ子で、大事に育てられたそうです。父親は貴子さんが小学生の頃からずっと家にいて、子育てや教育は父親中心だったとの事。

「父は教育熱心ではありましたが、怖いという感じではなく、ずっと側で勉強を見てくれました。母は働いていましたが、夜は必ず家にいて食事は3人でしたし、お風呂も母と一緒に入って、話をたくさん聞いてもらってました」

嫌な事があったり、悩みがあると必ず父親か母親に相談。それは子どもの頃からの習慣だったようです。母は仕事を楽しんでおり、その姿にも憧れていたそう。

「だから、夫は子育てが大変なら仕事を辞めればいい、と言いますが、私は母のように働いていたいんです」

貴子さんの心理テスト結果からは、両親の事が大好きで理想的存在となっている事が分かりました。愛情欲求は満たされていますが、両親への依存が今もある事も認められました。繁さんと息子への愛情はありますが、繁さんに対しては怒りが少しと「頼りにならない」と感じている事も分かりました。「頼りにならない」というのは、直接子育てに関わってくれない、という点です。

配偶者の愚痴を親に言わない方がいい理由

夫婦の照らし合わせのカウンセリングで、私はそれぞれのテスト結果を説明した後に、貴子さんと両親の関係について話しました。

「ご両親の事が好きなのは良い事ですが、夫婦間の問題は夫婦の話し合いで解決するようにした方がいいと思います。特に、繁さんへの不満はあまり言わない方が。貴子さんのご両親の繁さんへの評価がどんどん下がってしまいますから」

「じゃあ、私は誰に話をすればいいんですか?」

貴子さんが言います。

「どうしても誰かに聞いて欲しいのなら、お友だちとか。あと今後はここでお話し頂くのが良いかと思います」

貴子さんは不満そうな顔をします。

「でも、一番話しやすくて、分かってくれるのは両親なのに……」

「それによって、繁さんとの関係が悪くなるのは良くないですよね。貴子さんの実家から足が遠のくのも」

「それはそうですけど」

私はさらに付け加えました。

「息子さんを連れて頻繁に実家に帰るのも、息子さんにとって良くないと思います。お父さんとお母さんは仲が悪いんだ、と感じてしまうと思います」

「でも息子は私の両親にも懐いていますし。あちこち連れて行ってもらって喜んでます」

「たまにならいいと思いますが、どこかに出かけるのは繁さんと貴子さんの3人が一番嬉しいんじゃないですか?」

「そうですけど……」

今度は繁さんに向かって言いました。

「転職したばかりで忙しいという話でしたが、しばらくすれば落ち着きますか? つまり、喧嘩の原因となっている帰りが遅い、朝起きられないというのは今後解決できそうでしょうか」

「そうですね……今は本当に転職したばかりなので。3~4か月すれば落ち着くと思います。少なくとも、毎晩帰りが深夜という事はなくなるかと。早く帰って早く寝られれば朝も起きられますし」

繁さんがそう答えたので、

「じゃあ、それまでの間、どうするか考えておかないとですね」

私はそう言った後に提案しました。

「アウトソーシングするのは現実的ではないですか?」

「僕は、前からそう言っているんです。仕事を辞めるか、人を頼むかすればいいって」

繁さんがそう言ったので、私は言いました。

「まず、貴子さんが仕事を辞めるという選択肢をなくしましょう。貴子さんにその意思がないのに、それを提案すると関係が悪くなりますから」

貴子さんが頷きます。

「でも、妻は人を雇うのはどうしても嫌だって」

「そうなんですか?」

私は貴子さんに尋ねました。貴子さんは頷いた後、

「私は、子どもに関わるのは親であるべきだって思うんです。私もたっぷり手をかけてもらいましたし」

と言います。

「では家事はどうでしょうか? 掃除とか、料理の作り置きとか」

「他人に家に入られるのにも抵抗が……。料理は、親の手料理を食べさせたいですし。私もずっと両親の手料理で育ちましたから。食品添加物が入っていない物を食べさせてもらったので、私も息子にはそうしたいんです」

「僕はそれで負担が増えるなら、デリバリーでも惣菜でもいいだろうって言ってるんですけど」

料理が譲れないなら、他の方法を考えるしかありません。

「貴子さんが料理をしている間に掃除、洗濯をアウトソーシングするとか」

貴子さんはまた考えこみましたが、

「少しの間だけなら……」

と言ってくれました。

最後に私は確認の意味を込めて、貴子さんに言いました。

「ご両親には、『夫婦仲良くやってるから』『お金も困ってないから』と伝えましょうね。あと、繁さんの事を悪く言わないように」

貴子さんは「機会を見て、そうします」と言いました。

「あとは喧嘩になった後どうするかですね。実家に帰るのとお母さんに電話するのをやめるようにして、イライラがおさまらなかったら少し離れるのは良いと思います。貴子さんが気分転換出来る事はないですか? お友だちに電話でもいいですけど」

貴子さんは少し考えて、

「何人か、電話出来る友だちはいます。今度からはそうします。あとは、私は車の運転が好きなので、夫が息子を見ていてくれるなら、少しドライブすると落ち着くかもしれません」

「それはいいですね。繁さん、出来ますよね?」

私がそう言うと、

「喧嘩になるのは大抵夜中ですから、息子はもう寝てますし大丈夫です」

と繁さんが答えます。

配信元: 幻冬舎plus

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