妊娠中に仰向けで寝ていると、突然「気分が悪い」「冷や汗が出る」といった経験をしたことはありませんか。これは仰臥位低血圧症候群(ぎょうがいていけつあつしょうこうぐん)と呼ばれる状態で、妊婦さんに特有の生理的な変化などによって起こります。
多くの場合は、体位を変えるとすぐに回復しますが、放置すると母体や赤ちゃんに影響がでることもあります。
この記事では、仰臥位低血圧症候群の原因や症状、症状が現れたときの対処法、快適に休むための体位の工夫を解説します。

監修医師:
林 良典(医師)
消化器内科
呼吸器内科
皮膚科
整形外科
眼科
循環器内科
脳神経内科
眼科(角膜外来)
仰臥位低血圧症候群の原因と症状

仰臥位低血圧症候群とはどのような状態ですか?
妊娠中、仰臥位をとる(仰向けになる)と、お腹の中の赤ちゃんや子宮の重みで、背中側にある下大静脈(かだいじょうみゃく)という太い血管が圧迫されることがあります。その結果、血圧が低下してしまう状態が仰臥位低血圧症候群です。主な症状には、次のようなものがあります。
気分の不快感
吐き気
冷や汗
顔面の蒼白
重症化すると血圧が極端に下がって、意識消失・呼吸困難感などを呈するショック状態に陥るケースもあります。
仰臥位低血圧症候群になるメカニズムを教えてください
下大静脈は、下半身から心臓の右心房(うしんぼう)と呼ばれる場所へ血液を戻すはたらきをしています。妊娠中に仰向けになると、お腹の赤ちゃんと子宮の重みでこの血管が圧迫され、血液の流れが悪くなります。その結果、心臓に戻る血液の量(静脈還流量)が一時的に減ります。そうなると、心臓から全身へ送る血液の量も減るため、全身の血圧が下がります。これが、仰臥位低血圧症候群が起こる仕組みです。
どのような人が仰臥位低血圧症候群になりやすいですか?
仰臥位低血圧症候群は、おなかが大きくなってくる妊娠後期(妊娠28週以降)の妊婦さんで起こりやすいといわれています。また、下腹部に腫瘤がある方も、同様に下大静脈が圧迫されて、仰臥位低血圧症候群を発症するリスクがあります。
さらに、帝王切開の際に腰椎麻酔を受ける場合もリスクが高くなります。腰椎麻酔の副作用に血圧低下があること、手術中仰臥位で過ごすことなどの要因が重なり、仰臥位低血圧症候群を起こしやすくなると考えられています。
参照:
『仰臥位低血圧症候群』(日本救急医学会)
『帝王切開の麻酔Q&A』(日本産科麻酔学会JSOAP)
仰臥位低血圧症候群と症状が似ている病気を教えてください
仰臥位低血圧症候群は、仰向けで寝たときに下大静脈が圧迫され、一時的に血圧が下がることでおこるものです。ただし、めまいや気分不快などの症状は、ほかの病気が原因でも起こることがあります。代表的なものとして、次のような病気があります。
貧血
迷走神経反射(めいそうしんけいはんしゃ)
不整脈
貧血では、酸素を運ぶ赤血球が不足するため、立ちくらみや息切れが慢性的に続きます。体位を変えてもすぐには改善せず、長時間に渡って疲れやすいと感じるのが特徴です。
迷走神経反射は、強い緊張や痛み、長時間の立位などがきっかけで自律神経が過剰に反応し、一時的に血圧や心拍が下がって気分が悪くなるものです。体位に関係なく発症し、安静にすることで回復します。
また、不整脈の場合は、脈拍のリズムが乱れることがきっかけで動悸やふらつき、息苦しさを感じます。こちらも、姿勢を変えても改善しないのが特徴です。
仰臥位低血圧症候群と上記の病気は、身体を横向きにするだけで症状が軽減する点が大きな違いです。
症状が現れたときに身体の向きを変えて症状が改善すれば、仰臥位低血圧症候群である可能性が高いでしょう。身体の向きを変えても症状が続いたり、症状が慢性的であったりする場合は、ほかの病気である可能性があります。横向きになっても症状が改善しない場合は、ほかの病気の可能性も含めて受診を検討しましょう。
参照:
『貧血』(国立がん研究センター)
『迷走神経反射』(日本救急医学会)
『不整脈の症状は?』(一般社団法人日本循環器学会)
仰臥位低血圧症候群の身体への影響

仰臥位低血圧症候群はお腹の赤ちゃんに悪影響を及ぼしますか?
仰臥位低血圧症候群を起こすと、子宮や胎盤に流れる血液量が減ります。それに伴って赤ちゃんへ供給される酸素量も低下します。その結果、胎児機能不全(赤ちゃんが一時的に苦しくなる状態)を引き起こすことがあります。一時的な血圧低下であっても、血流が滞ると母体だけでなく胎児に影響が及ぶこともあるため、症状が出たときにはすぐに体位を変えましょう。
仰臥位低血圧症候群が長時間続くとどうなりますか?
仰臥位低血圧症候群が長時間続くと、母体と赤ちゃんの両方に影響が及ぶ可能性があります。具体的な身体に起こる変化の流れは下記のとおりです。
下大静脈が圧迫され、下半身から心臓への血液の戻りが悪くなる
心臓に戻る血液が減ることで、全身の血圧が下がる
子宮への血液が減り、赤ちゃんへの酸素供給が不足する
母体では、めまい・冷や汗・顔面の蒼白・吐き気などの症状が続き、重症の場合はショック状態に陥ることもあります。
赤ちゃんには、胎動の減少や、心拍出量の低下といった変化がみられることがあります。さらに、海外で発表されたある研究では、妊娠後期に仰向けで寝る習慣がある方の赤ちゃんの出生体重が約144グラム低いことが報告されています。
この研究結果は、仰向けの就寝が胎盤への血流を減らし、胎児の発育に影響を及ぼす可能性があることを示唆しています。
参照:
『Association of Supine Going-to-Sleep Position in Late Pregnancy With Reduced Birth Weight: A Secondary Analysis of an Individual Participant Data Meta-analysis』(JAMANetworkOpen)

