甲状腺がんの治療は、手術が中心です。しかし手術と聞くと、手術後の合併症への不安を感じる方も少なくないでしょう。
甲状腺がんの合併症には特有のものがあり、経験を積んだ医師による手術でも起こる可能性があります。そのため、身を守るには療養の仕方が重要です。
この記事では、甲状腺がんの手術後に考えられる合併症を取り上げます。経過観察や療養のポイントも解説しているので、参考にしてみてください。

監修医師:
久高 将太(琉球大学病院内分泌代謝内科)
琉球大学医学部卒業。琉球大学病院内分泌代謝内科所属。市中病院で初期研修を修了後、予防医学と関連の深い内分泌代謝科を専攻し、琉球大学病院で内科専攻医プログラム修了。今後は公衆衛生学も並行して学び、幅広い視野で予防医学を追求する。日本専門医機構認定内科専門医、日本医師会認定産業医。内分泌代謝・糖尿病内科専門医。
甲状腺がんとは?
甲状腺は喉仏(甲状軟骨)のすぐ下で気管を前から取り囲むように位置する、重さ10〜20gの小さな臓器です。この甲状腺にできた悪性腫瘍を甲状腺がんと呼びます。
甲状腺がんの種類は乳頭がん・濾胞がん・低分化がん・髄様がん・未分化がんに分けられ、一般的に若年の患者さん程予後がよいとされています。
2019年には18,780例が甲状腺がんと診断されており、そのうち女性は13,892例と圧倒的に女性の発症率が高いのが特徴です。
甲状腺がんの手術後の合併症
甲状腺がんの手術に伴う合併症には、ほかの疾患ではみられにくい特有のものがあります。
代表的な4つの合併症を取りあげ、それぞれの特徴を解説します。
反回神経麻痺
反回神経とは、甲状腺の裏側を走る声帯を動かす神経です。甲状腺切除の際に手術野に現れるため、この領域を扱う外科医師は反回神経の位置を十分把握しています。
しかし甲状腺がんが反回神経と癒着していると、剥がす際に神経にダメージを与えてしまい、反回神経麻痺を起こす可能性があります。
神経の働きが悪くなることで声帯の機能が鈍り、嗄声が起こるでしょう。
甲状腺機能低下・副甲状腺機能低下症
甲状腺は脳・骨の成長や新陳代謝を促す働きをもつ甲状腺ホルモンを分泌する、生きるうえで大切な器官です。
甲状腺がんの手術によって甲状腺が小さくなると、自然と産生されるホルモンの量は減ります。その結果、甲状腺機能低下症を発症し、倦怠感や疲労感が生じやすくなるでしょう。
また、血液中カルシウム濃度の維持に重要な副甲状腺ホルモンを分泌する副甲状腺も切除した場合、摘出する副甲状腺の数によって副甲状腺機能低下症を発症する可能性があります。
これにより血中カルシウム濃度の低下やリン濃度の上昇が起こり、手足の筋肉の痙攣や痺れ(テタニー症状)が起こるでしょう。
後出血
手術を終える際にはしっかりと止血をしてから縫合しますが、止血時には認められなかった出血が手術後しばらくしてから現れるケースが稀にあります。これを後出血と呼びます。
重度の後出血では再び全身麻酔をして傷を開き、止血術を行わなければなりません。出血を放置するとショックや感染が引き起こされるため、迅速な対応が必要です。
なお、甲状腺がん手術で後出血の処置が必要となる症例は極めて少ないです。
喉頭浮腫
喉頭浮腫は喉仏に相当する喉頭の内部の粘膜が腫れ、空気の通り道が塞がれることで呼吸が障害される症状です。
術後3~6時間に発症しやすく、頭頸部の静脈還流異常を伴う傾向があります。浮腫が強くなると、息を吸い込んだときに喉頭がヒューと鳴る喘鳴が起こり、呼吸が浅く速くなるのも特徴です。
腫れが急速に進行した場合には、窒息で死亡するリスクもあります。

