シェーグレン症候群の診断には、血液検査や組織検査、画像検査など複数の評価が組み合わされます。膠原病の一つとして分類されるこの疾患は、自己免疫機序が関与しており、女性に多く見られる特徴があります。診断が確定したあとは、症状の程度に応じた治療方針が立てられます。ここでは、診断プロセスや膠原病としての特徴、自己免疫疾患のメカニズムについて詳しく見ていきます。

監修医師:
桃原 茂樹(草薙整形外科リウマチクリニック)
【学歴】
慶應義塾大学 医学部卒
博士(医学)(慶應義塾大学)
米国Rush University Medical Center, Department of Biochemistry
日本・ヨーロッパ間リウマチ外科交流プログラム
【職歴】
1984年 慶應義塾大学医学部研修医(整形外科学)
1991年 慶應義塾大学医学部助手(整形外科学)
1993年 東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター助手
1997年 東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター講師
2005年 東京女子医科大学附属青山病院助教授
2008年 東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター教授
2008年 東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター副所長
2016年 慶應義塾大学先進運動器疾患治療学講座特任教授
2025年 医療法人社団 博恵会理事長
【現在の学会・社会活動】
日本整形外科学会 専門医
日本整形外科学会 リウマチ認定医
日本リウマチ学会 専門医・指導医・評議員
日本リウマチ外科学会 評議員
日本リウマチ学会 理事
シェーグレン症候群の診断プロセス
シェーグレン症候群の診断は、症状の問診と身体診察、検査所見を総合して行われます。乾燥症状が主訴であっても、その背景にシェーグレン症候群があるかどうかを見極めるには、複数の評価が必要です。初診時には、症状の持続期間や程度、ほかの全身症状の有無、家族歴などが詳しく聞かれます。診断基準では、口腔・眼の乾燥症状の有無、血液検査での自己抗体検出、唾液腺や涙腺の機能評価、組織検査などを組み合わせて実施されます。
組織検査と画像検査
確定診断のために、口唇小唾液腺の組織生検が行われることがあります。局所麻酔下で下唇の内側から小さな組織を採取し、顕微鏡でリンパ球の浸潤を確認します。一定数以上のリンパ球浸潤が認められれば、シェーグレン症候群の診断基準を満たします。この検査は外来で短時間で行え、侵襲も比較的少ないため、広く用いられています。
画像検査としては、唾液腺シンチグラフィーや唾液腺造影、超音波検査、MRIなどが利用されます。これらの検査により、唾液腺の構造や機能を詳細に評価できます。シェーグレン症候群では、唾液腺の萎縮や内部構造の不均一な変化が見られることが多いです。診断プロセスは複数の専門科(膠原病内科、眼科、歯科など)が連携して進められることもあり、包括的な評価が重要です。
鑑別診断の重要性
シェーグレン症候群と似た症状を示す疾患は複数あります。加齢による涙液分泌低下や、薬剤性のドライマウス、ほかの膠原病に伴う乾燥症状などと区別する必要があります。特に高齢者では、複数の薬を服用している場合が多く、抗ヒスタミン薬や降圧薬などの副作用として口渇が現れることもあります。
また、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの膠原病に二次的にシェーグレン症候群が合併することもあります。これを二次性シェーグレン症候群と呼び、ほかの膠原病を伴わない一次性シェーグレン症候群とは区別されます。症状が気になる場合は、早めに専門医を受診し、詳しい検査を受けることが推奨されます。
膠原病としてのシェーグレン症候群
シェーグレン症候群は膠原病(こうげんびょう)の一種に分類されます。膠原病とは、全身の臓器や血管、関節など、体を支える組織に慢性的な炎症が起こる疾患群の総称で、自己免疫機序が関与しているのが特徴です。代表的な膠原病には、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎などがあり、シェーグレン症候群もこの仲間に含まれます。
膠原病に共通するのは、自己の免疫系が誤って自分の組織を攻撃してしまう点です。シェーグレン症候群では、涙腺や唾液腺が主な標的となりますが、ほかの臓器にも影響が及ぶことがあります。膠原病は女性に多く、ホルモンや遺伝的要因、環境要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
膠原病の診断と管理
膠原病の診断には、血液検査が重要な役割を果たします。抗核抗体(ANA)やリウマトイド因子、各種特異的自己抗体の測定により、病態を評価します。シェーグレン症候群の場合、抗SS-A抗体や抗SS-B抗体が特異的なマーカーとなります。これらの抗体が陽性であれば、診断の確実性が高まります。
膠原病の管理では、免疫抑制薬やステロイド薬が用いられることがあります。ただし、シェーグレン症候群では乾燥症状が中心の軽症例が多く、すべての患者さんに強力な免疫抑制療法が必要なわけではありません。症状の程度や臓器病変の有無に応じて、治療の強度が調整されます。定期的な受診と血液検査、画像検査により、病状の変化を早期に捉えることが重要です。
ほかの膠原病との合併
シェーグレン症候群は、ほかの膠原病と合併することがあります。特に関節リウマチや全身性エリテマトーデスとの合併例が多く報告されています。こうした場合、二次性シェーグレン症候群として扱われ、基礎疾患の治療と並行してシェーグレン症候群の症状にも対処する必要があります。
複数の膠原病を合併している場合、症状が複雑化し、治療の調整が難しくなることもあります。免疫抑制薬の種類や投与量、副作用のモニタリングなど、専門医による綿密な管理が求められます。患者さん自身も、症状の変化を正確に伝え、自己管理に努めることが大切です。膠原病は慢性疾患であり、長期的な付き合いが前提となりますが、適切な治療により日常生活の質を保つことは十分に可能です。

