若手弁護士が東京に集中、地方司法に活路はあるか 東北唯一の日弁連会長経験者・荒中氏が語る

若手弁護士が東京に集中、地方司法に活路はあるか 東北唯一の日弁連会長経験者・荒中氏が語る

新人弁護士の3分の2が東京を選ぶ「一極集中」が加速し、地方の司法に静かな危機が迫りつつある。東北で唯一の日弁連会長経験者である荒中弁護士は、新規登録者の減少が「市民への法的サービスの提供」と「業務改革」に影響しかねないと警鐘を鳴らす。一方で、地方には未開拓の領域が残されており、若手が活躍するチャンスは十分にあると訴える。採用する側の意識改革から法テラスの課題まで、地方司法が活性化するための道筋を存分に語ってもらった。(取材・文/若柳拓志 写真/永峰拓也)

(弁護士ドットコムタイムズVol.77<2025年12月発行>より)

● 地方での新規弁護士減少は「市民に影響しかねない問題」

――2025年4月までに登録した司法修習77期の弁護士のうち、3分の2が東京三会を選択した現状をどう見ていますか

東京三会の登録者数増加は、私が日弁連の会長選挙に出馬した2020年の時点でもその傾向はありましたが、この5年でさらに加速した印象です。

東京で登録した弁護士の定着率も想像以上に高いように思います。弁護士として生活していくだけの収入を、東京という巨大なマーケットで確保できているということでしょう。

地方に身を置く者としては、現在の「東京一極集中」は長い目で見た場合決して好ましいものではないと感じています。この一極集中が今後も続くのか、どこかで変化が訪れるのか、ある種の不安と懸念を持ちながら推移を見守っているところです。

――仙台弁護士会でも、76期の一斉登録(2023年12月)では新規登録者がゼロということがありました

「一斉登録ゼロ」という事実は大きなインパクトがありましたが、あえて年明けの1月に登録する修習生が多かったという背景もありました。実際には一桁ながら入会者がおり、その点だけを見れば「たまたま」だったと言えるかもしれません。

しかし、問題の本質はそこではありません。少し前まで仙台では毎年10名以上の新規登録がありましたが、2023年度には一桁にまで落ち込んでいます。この事実は、高等裁判所の所在地である仙台であっても将来に向けて必ずしも安泰とはいえない状況にあるということを示しています。

ただ、現状では、新規登録者だけでなく、東京などから移ってくる中途採用の弁護士も毎年一定数いますので、会員数が減少しているというよりは、司法修習生からの登録者が減少傾向にあると捉えています。

――地方で新規登録の弁護士が減り続けた場合、どのような悪影響が考えられますか

主に2つの面で影響が出ると考えられますが、その1つは「市民に対する法的サービス」への影響です。

小規模な弁護士会は、この問題に早く直面するおそれがあります。地方裁判所の支部の管轄で弁護士登録がゼロか1人だけという「ゼロワン地域」が再び増え始め、法律扶助や国選弁護といった公益活動の担い手の問題が生じ、弁護士会の継続的な活動にも支障をきたす可能性があります。

仙台ではまだそのような段階には至っていませんが、将来、万が一同様の状況になれば、民事法律扶助、被疑者・被告人の国選弁護、少年事件の付添人活動といった、多くのマンパワーを必要とする法的サービスに少なからず影響が生ずるかもしれません。

もう1つは、「業務改革」への影響が挙げられます。

若手はAIやIT化に抵抗なく対応できる世代です。若手弁護士が事務所に入ってくることで、先輩弁護士も影響を受け、事務所全体の業務改革が進んでいくという側面があります。裏を返せば、若手が入ってこないということは、この業務改革の重要なきっかけの一つが得られないおそれがあることを意味します。

これは、市民への法的サービスや中小企業へのサービスなど様々な面で影響を及ぼす可能性があります。私の事務所には60期台と70期台の弁護士がいますが、70期台のポテンシャルはIT化やAIの活用などにおいて60期台を上回っているように思います。こうした若い世代の存在が、中堅以上の弁護士を触発し、事務所のアップデートを促しているのではないでしょうか。さらに言えば、十分な情報セキュリティ対策がなければ、国選や刑事事件への対応が困難になるという状況が間近に迫っています。

IT化・AI活用と情報セキュリティ対策の両輪を、特に一人事務所やベテランだけの事務所で回していくのは必ずしも容易なことではありません。少なくとも若手が一人でもいれば相談しながら進められるのに、その機会が得られないのは、地方で仕事をする私たちにとって大きな問題だと考えています。

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● 本庁所在地の弁護士も不足か「本格的な取り組みが必要」

――日弁連は「ゼロワン解消」など偏在是正に以前から取り組んできました。地方での新規登録者減は、これまでの問題と構造的に何か違うのでしょうか

私は、過去から続く問題というよりも、新たに生まれた問題だと考えています。

これまでの偏在問題は、弁護士がいないあるいは極端に少ない支部や独立簡易裁判所所在地の、いわゆる司法過疎地の問題でした。

この問題に対して日弁連は、全国に「ひまわり基金法律事務所」を設置したり、法テラスの事務所を誘致したりして、そこに赴任した弁護士にリーガルサービスを提供してもらう一方、可能であれば赴任した弁護士に地域に定着してもらうという取り組みを続けてきました。この取り組みは、司法過疎地解消という点ではかなり大きな成果があったと思います。

しかし、今直面している問題はまったく質が異なります。これまで偏在問題の対象とはされていなかった「本庁所在地の弁護士」が思うように増えず悩ましい状態が生じています。東北であれば、青森、秋田、山形、盛岡、仙台、福島といった各県の本庁所在地に以前と比較して新人弁護士が思うように入ってこない。この現象は、コロナ禍の少し前あたりから顕著になった新しい問題で、日弁連でも問題解消に向けて動き始めていますが、今後さらなる本格的な取り組みが行われるものと期待しています。

――この新しい問題について、日弁連や単位会は今後どう対処すべきでしょうか

まず、日弁連と地方の小規模・中規模会が、これまで以上に本気で力を合わせて取り組むことが望まれます。日弁連は偏在解消のための経済的支援などを実施していますが、問題の根深さを考えれば、さらなる方策を検討する必要があるように思います。

しかし、何より重要なのは、私たち地方の弁護士も問題の解決に向けてさらに力を注ぐ必要があるということです。

例えば、各自治体は移住者を呼び込むために、地域の魅力をアピールする様々なプロモーション活動をしています。私たちも同じように、若者に「この街で、この弁護士会であるいはこの事務所で働きたい」と思ってもらえるような、魅力的な企画や取り組みを立案し、実行していく必要があります。

――これが十分実施されていないのはなぜでしょうか

司法試験の合格者数が急増した時期に、私たちの日常業務に少なからぬ影響が生じましたが、今は以前より落ち着いているのではないかと感じている弁護士が少なくないように思われます。

地方における新規登録者が停滞している現在の状況について、以前に弁護士人口が急激に増加し業務の環境が大きく変化した時期と比較して変化が緩やかと感じているのかもしれません。そのことが、長期的なスパンでの環境悪化のおそれを見えにくくしている可能性はあります。

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