● 地方で働く魅力と可能性 「未開拓の領域残っている」
――「地方の経済縮小」が叫ばれ、厳しいイメージを持つ若者も少なくなさそうですが、弁護士については必ずしも当てはまらないのでしょうか
大都市圏で業務に従事することも大変魅力的なことかと思いますが、他方、専門職として一定の収入を得て比較的安定した生活を送るということであれば、地方で弁護士業務に従事することも十分検討に値することだと思います。
地方の事務所では、事務所から支払われる報酬等に加えて、弁護士個人で受ける事件や業務による収入を得ている弁護士が多いです。
例えば、地方で弁護士業務に従事した場合、法律扶助や国選弁護、弁護士会が行う法律相談など、給与以外の収入源もあります。もちろん、民事事件や家事事件など個別事件の受任も可能です。この給与と個人受任の二本柱を合わせれば、十分に生活していけるだけの収入を得られる弁護士が多いと思います。地方には未開拓の領域もまだまだ残されていると思っており、それこそが大きな可能性でもあると感じています。
――地元・仙台ではどうでしょうか
営業力のある人、特定の専門分野に強い人など、何か「武器」を持っている人は、相応の収入を得られる可能性があります。
例えば、中小企業の顧問業務です。仙台では、60期台以降の若手弁護士たちが共同事務所を作り、この分野に注力して多くの企業の信頼を勝ち取っている方が少なからずいます。
私自身が長年取り組んできた社会福祉法人や老健などを運営する医療法人、高齢者向けの病院といった福祉分野の法務も、もともと未開拓の領域でした。
若手がどのようなアプローチで中小企業の信頼を得ているのか、といった事例を具体的に共有する機会を持つなどして、「ハードル」を下げながら新しい分野に参入できる可能性があるということを、もっと広く知らせていくことが重要であると思います。
また、仙台弁護士会の登録者数は約500人ですが、「顔の見える関係」というのも魅力的だと思います。
――「顔の見える関係」にはどんな利点がありますか
この規模だと、委員会活動や弁護団活動、執行部での仕事などを通じてお互いの人柄に触れる機会が多く、弁護士が顔見知りになります。仕事をする上でギスギスせず、「先生、この問題はこうだから、こういう解決策はどうでしょうか」と率直に話し合うことも可能になります。
我々は依頼者の代理人として相手方代理人との間に最低限の信頼関係があれば、法令の解釈や該当する判例などを踏まえながら合理的な落ち着き先を探りやすく、結果的に事件の早期解決につながることがあります。
例えば、法廷で争う前に、「調停や訴訟ではなく、協議離婚で考えられませんか」といった打診もしやすい。顔の見える関係だからこそ、依頼者の利益にかなう解決を目指せることもあり得ます。相手がどういう主張をしてくるか分からず警戒心から入らざるを得ないようなケースとは、仕事の進め方が異なるように思います。

● 若手弁護士に伝えたいこと 「地方にも『豊かさ』ある」
――若手の登録増に至っていないのが現状かと思いますが、採用する側の問題もあるのでしょうか
反省を込めてお話ししますが、私自身もかつて、若手が自分で「あの事務所なら充実した修業時代を過ごせそうだ」ということを調べ、私たち先輩の門を叩くのが当たり前だと思っていた時代がありました。待ち構えている側としても、たとえ積極的に募集をしていなくても、門を叩いてきた人が良い人材であれば採用するつもりでした。
しかし、今の若い世代にはこのような対応は通用しないと多くの人に厳しく戒められもしました。「熱意を持ってきてくれるなら、我々は手塩にかけて育てる」という覚悟の表れでもあったのですが、時代の変化の中でその思いがうまく伝わらなくなっていました。「そういう時代ではなくなった」と認識を改め、私たちの気持ちをしっかり伝えて、今の若い世代の方々に安心して来てもらえるように、こちらからアプローチする努力をしていかなければならないと、今は考えています。
――若手に対して、地方の魅力をどのように伝えると良いのでしょうか
大都市の事務所が提示する給与水準やキャリアパスと優劣を競うのではなく、地方には大都市とは異なる「良さ」があるということを伝えたいです。
私は講演会などで「4つの顔を持ってください」とよく話しています。4つの顔とは、「職人」、「家庭人」、「地域人」、そして趣味など3つ以外の「個人」としての顔です。この4つの顔を持ちながら、人生を送るということが環境的にもより可能なことが、地方で働くことの大きな魅力だと思います。
私自身も、子どもが小さい頃に地域の「親父の会」を作り、今でもその仲間との交流を続けていますし、町内会で神輿を担いだり、学校行事でもちつき会を開いたりと、仕事以外の顔を大切にしてきました。人生は一度きりですから、多様な経験を積んでほしい。
私の事務所にいる60期台の弁護士は、子育てや地域との交流を非常に大切にしています。彼は甲子園を目指していた元球児で、朝早く出勤して仕事をこなして早く切り上げる日には少年野球の指導をしています。教え子の親御さんたちとの交流も深めています。
毎日、自分で考えてスケジュールを構築する。これは大切なことだと思います。また一般的にではありますが、地方では人との距離感が近いように思います。「地域人」としての顔も持ちやすいのではないでしょうか。
――東京の大手事務所でキャリアを始めた弁護士が、後から地方へ移るという選択肢についてはどうでしょうか
非常に重要な選択肢ですし、私たち地方の弁護士は、そうした方々を積極的に受け入れたいと考えています。
例えば、大都市圏で一般的な法律事務に従事する中で、あるいは企業法務を中心にキャリアを積み重ねていく過程で、別のキャリアを積み重ねたい、別の生き方もありかなと思う人もいるはずです。そのような場合、有力な選択肢の1つとして地方で弁護士業務に従事するということも考えてほしいと思います。
仙台や札幌、福岡、広島といった地方の中核都市圏でも良いし、それ以外の地域でも良いでしょう。地域の中で生きていきたいと考える人がいたら、私たちはいつでも歓迎します。これから地方は、新規の弁護士だけでなく、中途採用の弁護士の受け皿にもなっていくと思っています。その受け皿をどう作っていくかを、私たちはもっと真剣に考える時期に来ているように思います。


