おひとりさまブームで増え続ける独身人口。しかし“身元保証人”がいない高齢者は、入院だけでなく、施設への入居を断られることも多いそう。
さらに認知機能の低下で金銭管理が怪しくなり、果ては無縁仏になるケースも……。
「おひとりさま高齢者」問題研究の第一人者、沢村香苗さんが上梓した幻冬舎新書『老後ひとり難民』より、一部を抜粋してお届けします。
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2000年まで「介護」の概念は一般的ではなかった
「老後ひとり難民」の問題を考えていくための前提として、今の高齢者を支える「公的制度」について確認しておきましょう。
高齢者を支える公的制度として誰もが真っ先に思いつくのは、介護保険制度でしょう。
健康保険や年金保険、雇用保険、労災保険などと並ぶ社会保険の一つとして介護保険がスタートしたのは、2000年のことでした。
皆さんは、介護保険制度が導入された当時、「介護」という言葉自体が“新しい概念”だったことをご存じでしょうか。
かつての日本では、寝たきりの高齢者などは、主に家族が世話をするか病院に入院し続けるケースが多かったのです。
いわゆる「老人ホーム」はありましたが、イメージが悪く、「そういった施設にだけは入りたくない」と考える人も少なくありませんでした。
しかし、治療の必要がない患者が長期間入院し続ける「社会的入院」は、医療費増大の要因の一つとして無視できなくなっていました。
また、高齢化の進展にともない、ケアが必要な人を家族だけで支えるのが難しいケースも顕在化してきました。
こうした状況を受け、医療とは異なる「介護」という枠組みが作られ、介護を必要とする高齢者を支える仕組みとして介護保険制度が導入されたのです。

保険料を払っているのに「介護保険を使いたくない」という人たち
介護保険については、健康保険や年金保険と比べると、誤ったイメージを持つ人も少なくないように思います。
そもそも社会保険とは、加入者が保険料を支払うことで、病気やケガをしたとき、高齢になって収入を得るのが難しくなったとき、介護が必要になったときなどのような「困る場面」で必要な給付を受けられるというものです。
たとえば健康保険なら、原則として健康保険に加入している人は保険料を支払っており、医療機関にかかった際の費用の一部(通常は7割)を保険から給付してもらえます。窓口で負担するのは3割です。
年金保険であれば、20歳以上60歳未満のすべての人が国民年金に加入して保険料を支払っており、老後は基礎年金を受給することができます。
保険料を払っているのですから、「健康保険は使いたくない」という人や「年金は要らない」という人はいないでしょう。
ところが介護保険となると、「介護保険を使いたくない」という人がいるのです。
介護については「誰かのお世話になる」というイメージがあるためか、「人の世話になるのは申し訳ない」「介護を受けるなんて恥ずかしい」といった気持ちになってしまうのかもしれません。
しかし、私たちは40歳から介護保険料を支払っています。健康保険や年金保険を使うのと同じように、介護保険を使うのは当たり前のことです。
病気になったりケガをしたとき、病院で健康保険を使って医療のプロフェッショナルから治療などを受けるのと同様、介護が必要になった場合は、介護保険を使って介護のプロフェッショナルから介護サービスを受けるものなのだということを知っておいたほうがいいでしょう。


