
「きょうだい児」という言葉をご存知でしょうか。
きょうだい児とは、障害や病気を持つ兄弟姉妹がいる子どものこと。親の関心や時間が障害のある兄弟姉妹に集中して我慢を強いられたり、ケアの必要なきょうだいの世話をするヤングケアラーとしての役割を背負わされたり。さらに、自分自身の進路も制限されたり、時には恋愛や結婚にも支障があることすらあります。
これまでは障害のある兄弟姉妹や親の影に隠れて見過ごされがちな状況でしたが、近年SNSでの発信などを通してきょうだい児たちの葛藤が少しずつ認知されるようになってきました。
そんな中、注目を集めている漫画が、今年8月に発表された『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』。作者は社会福祉士の資格を持ち、福祉の現場での勤務経験もある漫画家のうみこさんです。

そして、この作品の監修を手がけたのは、「Sibkotoシブコト │ 障害者のきょうだい(兄弟姉妹)のためのサイト」を共同運営する白井俊行さん、松本理沙さん、藤木和子さん。それぞれ障害のある兄弟姉妹を持つ当事者の立場として、この作品の監修に関わったそうです。今回はそんなSibkotoの皆様に、作品についてお話を伺いました。
まず、作品のあらすじをご紹介します。
「妹なんか生まれてこなければよかったのに」あらすじ

主人公の透子には知的障害のある妹・桃乃がいます。トイレ・食事・入浴など、 生活のすべてに介助が必要で、父親は療育に無関心で桃乃の世話をするのは母親の仕事。「私がママを助けなきゃ」と思った透子は率先して桃乃の世話や家のことをするようになります。

しかしパートに出る母親の代わりに桃乃の介助を任されるようになり、本当は行きたかった高校にも進めない状況になります。自分の時間を自由に使える友人たちを見るうち、透子は妹から離れたいと願うようになります。

大学から家を出て県外に進学した透子は、メーカーに就職し、恋人とも婚約。しかし老舗旅館の跡取りである婚約者の家族は、桃乃の障害を理由に結婚を許さず、顔合わせの席で手切れ金を透子に渡したのでした。
この一件でショックを受けた透子は、心の底に秘めていた「お前なんか生まれてこなければ良かったのに」という本音を桃乃にぶつけてしまいます…。

きょうだい児がいることで様々な壁にぶつかり葛藤する主人公が、同じ境遇の人々と出会ってサポートを得ながら自分の人生を歩み始める物語です。
「Sibkotoシブコト」運営者インタビュー
――『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』の作品を読んでみて、当事者としての感想はいかがでしたか?
Sibkoto:シブコト運営者3人のそれぞれが、「親の描写がリアル」「主人公の透子の自分を取り戻す過程が、きょうだい児のヒントや勇気になりうる」などの感想を持ちました。同時に「透子は100人100通りであるきょうだい児のうちの”一例”であること」「こうしたある種のハッピーエンドに対して、苦しく感じる当事者へのフォローが必要ではないか」といった意見も出ました。

――物語のどんなところに共感されましたか?
Sibkoto:こちらもシブコト運営者3人それぞれ、共感した部分もあれば、自分は違うと感じた部分もありました。あらためて、同じきょうだい児の立場でも感じ方が違うことを実感しました。
リアルさを感じた部分は、例えば、妹の障害を理由に結婚が破談になった時に、両親が傷心の透子に同情するよりも「そんな事言う家の人と結婚しなくて良かった」と相手を悪く言うシーンです。ほかにも、透子が優等生タイプのきょうだい児と自分を比較して葛藤する様子や、最後の「自分の心に正直に…自由に生きていいんだ」のセリフなどに共感しました。
――監修者としてこの作品にどのようなスタンスで関わられたのでしょうか?
Sibkoto:兄弟姉妹は互いに独立した存在で、きょうだい児が世話をしなければいけない義務は法律上ありません。本来、それは親、ひいては社会の役割です。その上で、「障害のある兄弟姉妹にどこまでかかわるかはきょうだい児本人にしか決められない」「ともに歩みたいと思うのも、別々の人生を歩みたいと思うのも、どちらも正しい」というスタンスで監修させていただきました。
――では、具体的にはどのようなコメントをされたのでしょうか?
Sibkoto:実は、かなり細かいところまでコメントさせていただきました。例えば、透子の父が「家族全員が幸せになる方法を探そう」というセリフが最初はありました。ここは、「きょうだい児は家族全員が幸せにならないと自分が幸せになってはいけないんだ」と思わせてしまいそうなので、変更していただきました。
また、結婚式で障害のある兄弟姉妹と一緒に歩く仲の良いきょうだい児もいる一方で、さまざまな事情を経て実家と音信不通になったり、絶縁しているきょうだい児もいたりすることにも触れてほしいとお願いしました。

――「Sibkoto」は「障害者のきょうだい(兄弟姉妹)のためのサイト」とのことですが、具体的にはどのようなサイトでしょうか。
Sibkoto:Sibkotoは2018年にスタートしました。きょうだい児の会や講演会などのイベント情報、きょうだい児の体験談や専門家による特集記事などを発信したり、投稿やコメントでの交流の場を提供したりしています。100人いたら100通りあるきょうだいの体験談のアーカイブになるようなサイトをめざしています。
――主人公の透子と同じように障害のある兄弟姉妹を持つ方は、「Sibkoto」のサイトをどのように利用したら良いでしょうか?
Sibkoto:まずは、特集記事や投稿を見て自分のヒントになりそうなものを探してみてください。また、サイトでは、イベント情報や各地のきょうだい児の会や支援団体、支援・相談先一覧を紹介しています。シブコト運営者が関わっている会は、全国きょうだいの会、北陸きょうだい会、聞こえないきょうだいをもつSODAの会、しぶほど(横浜市)などがあります。
団体ごとの特色やその時の参加者によっても、雰囲気や話題が異なるので、一度ではなく、ぜひ何度か参加してみてほしいです。自分に合う人や場所を見つけてもらえればと思います。

――きょうだい児としての立場から、読者に伝えたいことはありますか?
Sibkoto:この物語の主人公の透子のように、障害のある兄弟姉妹や親との関係に悩む人は少なくありません。幼少期からのさまざまな出来事の積み重ねがあって、漫画のタイトルのように「障害のある兄弟姉妹なんか生まれてこなければ」と思ってしまうことに苦しむ人もいるかもしれません。それでもどうか、きょうだい児自身の気持ちを否定したり責めたりせず、大切に尊重してほしいと思います。
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主人公の透子は障害のある弟を持つ同僚と出会い、きょうだい児の会に参加するようになって少しずつ自分を取り戻していきました。同じ悩みを持つ人々と出会って気持ちを共有したり、情報を得たりすることで、なにかが変わる可能性があります。きょうだいのことで負担を抱えている方は、ぜひ「Sibkoto」のサイトにアクセスしてみてください。

