合掌土偶
炎の器「火焔型土器」
ー 縄文時代中期(約5000年前) 新潟県十日町市笹山遺跡出土
「火焔型土器」国宝指定番号1, Public domain, via Wikimedia Commons.
縄文土器と聞くと、この「火焔型土器」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。 燃え上がる炎を連想させるダイナミックな装飾は、多くの人を驚かせ、縄文時代のイメージをつくりあげてきました。
火焔型土器は縄文時代中期に、新潟県の信濃川流域とその周辺で作られた極めて地域性の高い土器です。
火焔型土器の基本的な造形
その造形は一見無作為に見えますが、実は規則性のある形で構成されています。
・4つの突起
最大の特徴である口縁部の4つの突起は、鶏のトサカに似ていることから「鶏頭冠(けいとうかん)突起」と呼ばれます。さらにそれぞれに、尻尾のような形の小さな突起が付けられています。
・フリル状の装飾
上記の4つの突起を繋ぐように、ギザギザした「鋸歯状(きょしじょう)突起」と呼ばれる装飾が施されます。
・円を描く装飾
その下の土器の頸部には、生き物の眼のような円を描く突起が付いています。その周りは「S字」や「渦巻き」など様々な文様で埋められ、その種類や組み込み方は個々に異なります。
・下部を飾る文様
土器は下にいくほど細くなる円錐台で、縦に線が施されています。そこには「渦巻」などの文様が巧みに組み込まれています。
基本を踏まえながら変化する造形
「火焔型土器」 国宝指定番号14, Public domain, via Wikimedia Commons.
国宝指定は正式には「火焔型土器を中心とする深鉢形土器57点」をさします。それらの土器は基本の形に則しながらもそれぞれに個性を持っています。
例えば「鶏頭冠突起」の代わりに短冊状の王冠の様な突起がついたり、ギザギザの「鋸歯状突起」の代わりに緩やかな曲線が施されたりと、全体のフォルムを変えることなく部分的に変化が加えられています。
土器は実用品?それとも祭祀用?
実際に使っていたとは思えないような装飾が付いていますが、土器の内部に煮炊きによって付着したとみられる炭化物(おこげ)が残っている例があり、日常的な調理器具として使われていたと考えられています。
日常使いの土器に極端とも言える装飾を施したことには、祭祀的・呪術的な強い意味が込められていたのかもしれません。
一方であまりにも使い勝手が悪そうなことから、何か特別な日、例えば祭祀の日に煮炊きをする専用の土器であったのではないか、という見方もあります。
デザインに込められたものは?
一説には、信濃川流域という限定的な地域で作られていることから、土器下部に刻まれた縦の線は川の流れを表わし、火への信仰や天地への祈りが込められているとも言われています。
いずれにしても、見る人の創造力をかき立てる強烈な個性を放つ土器ではないでしょうか。
展示:十日町市博物館
個性的な国宝土偶①:母なる土偶「縄文のビーナス」
ー 縄文時代中期(約5000年前)長野県茅野市棚畑遺跡出土
「縄文のビーナス」筆者撮影
土器の他に「土偶」も出土しています。同じ縄文時代の土偶であってもデザインは幅広く、見ていてなんとなくほっこりするものばかりです。
今回紹介する5体の国宝土偶はそれぞれに個性的で、その地域のその時々の縄文文化を象徴するものとされています。
1つ目は、「縄文のビーナス」。
高さ27㎝。ハート形の顔、切れ長のつり上がった目、尖った鼻、ぽかんと開けた小さな口は、この時代の長野・山梨県周辺の土偶に共通する特徴です。
土地造成に伴い発掘された集落跡の中央にある穴から、横たわった状態で発見されました。
「縄文のビーナス」の注目ポイント
妊婦を思わせる女性らしいフォルムが特徴です。やや下がり気味に突出した腹、腰回りは左右対称の弧線で描かれ、弓なりの背中から大きな臀部へと続きます。明らかに妊娠している女性の姿を表わしているようです。
大きな下腹部を支える足はどっしりと太く、なぜか右足の方が左足よりも若干短くなっています。
何かを被っているような大きな頭は、帽子または髪型と考えられています。その頭頂部は平たく、渦巻き模様が施され、側頭部周辺には幾何学文様が加えられています。また材料の土には雲母が混ぜられ、随所が金色に輝き、全身は光沢が出るほどよく磨かれています。
ふくよかな女性の温かみを感じさせる造形には、妊娠や出産の無事がこめられていると言われています。
展示:茅野市尖石縄文考古館
