馬運車にぶつかったら「人生が終わる」ネットの噂は本当か?競走馬の賠償額と対物無制限の限界

馬運車にぶつかったら「人生が終わる」ネットの噂は本当か?競走馬の賠償額と対物無制限の限界

東名高速道路を走行していた競走馬などを運搬する「馬運車」と一般車が接触したとみられる投稿がSNSで拡散し、「馬運車にぶつかったら人生が終わる」「馬運車が走っていたら近づかないのが鉄則」といった声が相次いでいます。

競走馬や乗用馬を輸送する馬運車には、高額なサラブレッドが乗っていることもあり、事故を起こした場合の賠償額が極めて高額になるというイメージが広く浸透しているようです。

実際に馬運車との交通事故が起きた場合、損害賠償はどのように判断されるのでしょうか。直接の交通事故ではありませんが、参考になるのが、札幌地裁浦河支部の判決です(平成17年4月21日)。

この事件では、放牧中の未出走の競走馬3頭が誤って射殺されたことを受けて損害賠償が争われました。裁判所は、血統や体格、繁殖牝馬としての価値など、馬の「個性」を詳細に検討したうえで、3頭合計3711万6140円という高額な損害額を認定しました。

1頭あたりの価値は、1750万円、1250万円、500万円と算定されており、未出走馬であっても、高額な経済的価値が認められることを示した事例です。

では実際に、馬運車と事故を起こした場合、法的責任や損害賠償額はどう判断されるのでしょうか。好川久治弁護士に聞きました。

●高額になりやすい競走馬の賠償

──競走馬が乗った馬運車と事故を起こし、馬が死亡したり、ケガを負ったりした場合、法的にはどうなりますか。

馬は、法的には「物」として扱われます。そのため、事故で馬が死亡した場合には、馬の交換価値、つまり時価が賠償の対象となります。

競走馬の場合、レース出走の実績や将来の種牡馬としての価値が考慮されます。未出走馬であっても、血統や性別、年齢などの一般的要素に加え、体格や性格といった個体差も踏まえて、時価が算定されます。

ケガをした場合には、治療費や生命維持のために必要な費用が賠償の対象となります。ただし、治療費が高額となり、時価を上回るときには、全額が認められないこともあります。

このほか、馬の運搬費や処分費などが認められるほか、出走馬であれば、出走できなかった期間の獲得賞金を踏まえた逸失利益が認められることもあります。

慰謝料については、「物」の財産的価値が補償されれば精神的苦痛も慰謝される、という考え方から、原則として認められません。

ただし、家族同然にかわいがっていたペットを亡くした場合などには、例外的に慰謝料が認められることがあります。競走馬であっても、単なる経済的価値の対象ではなく、生まれたときから世話をし、苦楽を共にしてきたなど、家族同然にかわいがってきたような場合には、慰謝料が認められる可能性はあると思います。

これらの損害を合算すると、死亡した場合や、ケガにより殺処分せざるを得なかった場合には、数千万円規模の損害賠償が認められることも十分にあります。

●保険でカバーされないケースも

──対物賠償「無制限」の保険に入っていれば、原則として補償されるのでしょうか。

自動車事故における対物賠償責任保険の補償対象には、被害車両に積載されていた「物」も含まれます。したがって、それが馬のような生き物であったとしても補償の対象になります。

すべての自動車保険約款を確認したわけではありませんが、航空機のような特殊な物が被害にあった場合を除き、原則として全額補償の対象となります。

──では、保険で補償されず、損害を自己負担せざるを得なくなるのはどのような場合でしょうか。

次のようなケースでは、補償されない、または一部が自己負担となる可能性があります。

(1)「免責あり」の保険に加入している場合は免責額
(2)対物賠償の限度額を定めており、その限度額を超えた部分
(3)故意による事故
(4)日本国外で発生した事故
(5)運転者の年齢条件が付されているにもかかわらず、条件外の運転があった場合
(6)認知機能が低下した高齢者が事故を起こし、本人に責任能力が認められず、法定の監督義務者が代わって賠償責任を負う場合(ケースによる)

馬運車に限らず、危険な運転で事故を起こせば、高額な賠償責任を負う可能性があります。改めて安全運転を心がけたいところです。

【取材協力弁護士】
好川 久治(よしかわ・ひさじ)弁護士
1969年、奈良県生まれ。2000年に弁護士登録(東京弁護士会)。大手保険会社勤務を経て弁護士に。東京を拠点に活動。家事事件から倒産事件、交通事故、労働問題、企業法務まで幅広く業務をこなす。趣味はモータースポーツ、ギター。
事務所名:ヒューマンネットワーク中村総合法律事務所
事務所URL:http://www.yoshikawa-lawyer.jp/

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