寝不足の時、血圧はどう変化するかご存知ですか?とき、身体はどんなサインを発している?メディカルドック監修医が病気のリスク・対処法など解説します。

監修医師:
伊藤 陽子(医師)
浜松医科大学医学部卒業。腎臓・高血圧内科を専門とし、病院勤務を経て2019年中央林間さくら内科開業。相談しやすいクリニックを目指し、生活習慣病、腎臓病を中心に診療を行っている。医学博士、産業医、日本内科学会総合内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本東洋医学会漢方専門医、日本医師会認定産業医、公認心理師。
寝不足と血圧の関係性とは?
寝不足と血圧には、深い関わりがあります。まずは寝不足だと血圧にどのような影響があるのかを押さえておきましょう。
睡眠不足とは?寝不足・徹夜の定義
睡眠不足とは、一般的に「心身ともに健康に過ごすために必要な睡眠が十分に取れていないこと」を指します。
成人の場合6時間未満の睡眠時間が続くと「睡眠不足」と判断される傾向があります。
これは、厚生労働省による「健康づくりのための睡眠ガイド2023」で、成人は1日あたり少なくとも6時間以上の睡眠を確保するようにすすめられているためです。同ガイドでは、個人差があるものの、成人の適正な睡眠時間は6~8時間とされています。
また、「徹夜」という言葉に明確な定義は定められていませんが、一般的には「あること(仕事や勉強など)をして夜通し起きていること」や「眠らずに連続して起きていること」を指します。
また、必要な睡眠時間は以下のように季節や年齢によっても異なります。
睡眠時間と関係する要素 どのように変化するか
年齢 加齢によって必要な睡眠時間は徐々に短くなる
季節 冬より夏の方が10~40分ほど短くなる
ただし、実際に必要な睡眠時間は、体質や持病の有無などによっても異なります。布団に入ってから寝付くまでの時間によっても睡眠時間は異なるため、睡眠不足状態が慢性的に続く場合は医療機関で相談したり、睡眠時間を計測するアプリなどを利用したりするのもよいでしょう。
睡眠不足が血圧に与える影響
睡眠不足は、血圧の上昇に大きな影響を与えます。
一晩徹夜をするだけでも、血圧は通常よりも上がりやすくなります。本来、睡眠中は神経が「休息・リラックスモード」へ切り替わり、血圧は自然と下がるのが通常です。しかし、寝不足だとこの「リラックスモード」への切り替わりがうまくいかず、「活動・興奮モード」が続き、血圧が下がらなくなるのです。
健康な成人でも、1日徹夜をすると血圧が約10mmHg上がったという報告もあります。
この状態が慢性化すると、血管は常に緊張した状態となり、血圧が下がりにくくなります。
つまり、睡眠不足は短期的・長期的どちらの面でも高血圧のリスクとなるのです。
寝不足だと血圧の下の数値が上がりやすい?
寝不足の場合、上と下の血圧両方が高くなる可能性が高いと考えられます。
寝不足だと、神経が興奮状態のままになるため、夜の血圧が十分に下がりません。その結果、血圧が全体的に上がりやすくなります。
そのため、下が高い場合もあれば上が高くなることもあり、一概にはどちらが上がりやすいとは断言できません。
寝不足で血圧が上がる原因は?
寝不足は、さまざまな原因によって血圧を上昇させます。ここでは、そのうち「自律神経の乱れ」「ホルモンバランスの変化」「腎臓の機能低下」の3つを解説します。
自律神経の乱れ
寝不足になると、「交感神経」の活動必要以上に活発になり、自律神経のバランスが崩れて血圧が上がりやすくなります。
自律神経には、活動・興奮モードの「交感神経」と、休息・リラックスモードの「副交感神経」があります。健康な状態では、人は毎日以下のようなサイクルを繰り返しています。
夜間 日中
優位になる自律神経 副交感神経 交感神経
血圧 下がる 上がる
しかし、寝不足になると、交感神経から副交感神経への切り替えがうまくできません。その結果、自律神経のバランスが崩れて血圧のコントロールが難しくなるのです。
ホルモンバランスの変化
寝不足は、ホルモンバランスの変化による血圧の上昇にも影響しています。
寝不足によって上昇する可能性のある、血圧上昇に関わるホルモンをいくつか紹介します。
・カテコールアミン(ノルエピネフリンなど):交感神経を興奮させ、血管を収縮させる
・コルチゾール:ストレスに対抗するため分泌され、血圧も上昇させる
・ナトリウム調節ホルモン(アルドステロン):腎臓に作用し、ナトリウムを体内にためることで血圧を上昇させる
通常、身体はさまざまなホルモンの分泌が複雑に関係しあって、体調を維持しています。しかし、寝不足によってこのバランスが崩れると、血圧を上昇させるホルモンの影響が強くなり神経が「興奮・緊張状態」に傾くため、血圧が上がりやすくなります。
腎臓での塩分排泄機能の低下
寝不足は、腎臓が持つ「余分な塩分を体外に捨てる機能」を低下させることでも、血圧を上昇させます。これに関わるのが、先ほど紹介した「アルドステロン」というホルモンです。
通常、腎臓は体内の塩分濃度を一定に保つため、余分な塩分(ナトリウム)を尿として排泄しています。しかし、寝不足が続くとアルドステロンの分泌が増加し、腎臓に対して「塩分を排泄せず、体内に溜め込むように」という指令が出されます。
塩分には水を引き付ける性質があるため、塩分が増えると体の水分量も増加します。その結果、全身を流れる血液(水分)の量が増え、血管にかかる圧力が強くなり血圧が上昇するのです。

