心不全は命にかかわる疾患ですが、適切な運動療法で進行を防ぐことが可能です。近年、注目されているのが「心臓リハビリテーション」。医師の指導のもとでおこなう安全な運動は、心臓の機能回復を助け、再発や入院のリスクを減らすことがわかっています。この記事では、心臓リハビリテーションの具体的な内容や効果、実践のポイントについて「KENカルディオクリニック柏」の中村先生に解説していただきました。

監修医師:
中村 賢(KENカルディオクリニック柏)
東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。その後、東京慈恵会医科大学附属病院、明理会中央総合病院、埼玉県立小児医療センター、埼玉県立循環器・呼吸器病センターなどで心臓外科医として経験を積む。2023年、千葉県柏市に「KENカルディオクリニック柏」を開院。医学博士。日本外科学会専門医・指導医、日本循環器学会専門医、心臓血管外科専門医認定機構修練指導医。
心臓リハビリテーションの内容
編集部
そもそも心臓リハビリテーションとは、どんな取り組みなのでしょうか?
中村先生
心筋梗塞や心不全など心臓疾患を経験した人が、再発予防や体力回復を目的としておこなう総合的なプログラムを心臓リハビリテーションと言います。医師や理学療法士、管理栄養士、看護師などの多職種が関わり、運動療法、栄養指導、服薬管理、生活習慣の改善指導などが組み合わされます。運動を指導するだけではなく、心のケアや社会復帰支援も含まれます。また、心臓リハビリテーションはグループでおこなわれるケースも多いので、自然と患者さん同士のコミュニティが生まれるのも特徴の1つです。
編集部
どのような人が心臓リハビリテーションの対象ですか?
中村先生
主に「心筋梗塞後に心不全の既往がある人」や「心臓手術後の人」などが対象となりますが、最近では心疾患の予防目的で導入されるケースも増えています。高齢者やフレイル傾向のある人も、状態に合わせて無理なく取り組めるプログラムが組まれるため、幅広い患者層が対象です。
編集部
心臓リハビリテーションでおこなう運動内容について教えてください。
中村先生
心臓リハビリテーションの運動プログラムは、基本的にテーラーメイドで構成されます。つまり、一人ひとりの体力や状態に応じた、個別のプログラムが提供されるのです。そのため、心臓リハビリテーションを開始するにあたっては、まず「CPX(心肺運動負荷試験)」という検査をおこない、運動時の心肺機能や体力レベルを正確に評価します。こうした客観的データを基に、安全で効果的なプログラムを作成していくのです。
編集部
具体的には、どのような運動をおこなうのですか?
中村先生
例えば当院では、ウォーミングアップとして「かしわロコトレ」という柏市オリジナルの体操をおこなっています。ストレッチ代わりとしてこの体操をした後に、トレッドミルでのウォーキング、自転車エルゴメーター、軽い筋力トレーニングなどを実施します。運動負荷は心電図や血圧をモニターしながら安全に調整されます。また、運動前後にはストレッチや呼吸法もおこないます。
運動療法の効果
編集部
心臓に不安があるのに、運動しても大丈夫なのでしょうか?
中村先生
不安に感じるのは当然ですが、適切に管理された運動療法はむしろ心臓を守る手段になります。心不全の患者さんでも、状態に合わせた軽い運動を継続することで、心機能の改善効果が得られ、心不全の症状軽減につながります。逆に運動を避けると筋力や持久力が低下し、心臓への負担がかえって増すリスクもあるのです。
編集部
心不全などの予防にも役立つのですか?
中村先生
はい。心不全の主な原因には高血圧や冠動脈疾患などがありますが、運動はそれらのリスク因子をコントロールする働きがあります。例えば、有酸素運動は血圧や血糖、コレステロールを改善する効果があり、結果として心臓への負担を軽減します。
編集部
運動療法で、心臓自体が強くなるのですか?
中村先生
心臓は筋肉でできていますが、ほかの部位の筋肉のように直接鍛えることはできません。しかし、運動によって心臓の働きをサポートする筋肉を鍛えることは可能です。また、運動することによって持久力や全身の代謝が向上すれば、心臓の負担が軽くなります。さらに血管が柔軟になり、血流が良くなれば心臓も楽に働けるようになります。特に心拍数や血圧の数値が改善されることは、心臓にとって大きなメリットと言えるでしょう。
編集部
運動を始めて、実感できる効果はありますか?
中村先生
継続することで「息切れしにくくなる」「階段を楽に昇れる」「疲れにくい」など、日常生活の中ではっきりと変化を感じる人が多いと思います。また、「うつ症状や不安感の軽減」「睡眠の質の改善」など、精神面でも良い影響がみられます。これらの変化が、生活の質の向上と心不全予防につながるのです。
編集部
様々な効果があるのですね。
中村先生
実際に、心臓リハビリテーションの効果は様々な研究によって確認されています。例えば、「閉塞性動脈硬化症の患者さんの場合、薬物療法よりも運動療法の方が歩行距離が伸びる」という報告もあります。

