
初代「エイリアン」の前日譚にあたる「エイリアン:アース」の最終話「本物の怪物」が、9月24日に配信された。第7話でウェンディ(シドニー・チャンドラー)がエイリアンたちを研究室から解き放ち、混沌とした状況になっていたが、最終回となる第8話ではウェンディが“ロスト・ボーイズ”たちを扇動し、輪をかけてカオスな状況に。そして誰も予想していなかった結末を迎えることとなった。(以下、核心に触れるネタバレを含みます。未見の方はご注意ください)
■ロスト・ボーイズが“大人”たちに反旗を翻す
同作は、エイリアンの創造主“リドリー・スコット”が製作総指揮を務め、アメリカの制作会社「FX」が手掛けたドラマシリーズ。第7話で、ジョー・ハーミット(アレックス・ロウザー)が妹ウェンディを施設から脱出させ、船まで連れて行くが、待ち伏せしていたプロディジー社の保安部隊員たちと衝突。理性を失い、隊員の一人のアゴを潰してしまったニブス(リリー・ニューマーク)の暴走を止めるためにジョーは銃で撃ってしまい、ウェンディの怒りを買ってしまう。
プロディジー社のCEO・カヴァリエ(サミュエル・ブレンキン)に不信感を抱き、ジョーと共に施設からの脱出を決意したウェンディ。しかし、ジョーがニブスを撃ったことで“人間”、あるいは“大人”全体に対する不信感・敵意が生じ、“ロスト・ボーイズ”を扇動して抑圧されてきたことへの仕返し(リベンジ)を始める。
デイム・シルヴィア(エシー・デイヴィス)は“ロスト・ボーイズ”の開発チームの一人で、みんなのお世話をする母親のような存在だったが、ニブスの記憶の改ざんを行ったことでウェンディとの間に溝が生まれた。第8話の冒頭で、ウェンディらハイブリッドになった“ロスト・ボーイズ”の墓に花をたむけるシーンが出てくるが、これも一つ象徴的な場面だと言える。心や記憶を移植したが肉体的には“死”を迎えたこと、つまり、もう人間ではないということ。

■人間を“恐れる側”から“恐れさせる側”へ
その直後、ケージの中に監禁されたウェンディらが話し合うシーンが出てくるが、ウェンディもそのことに気付いているのが分かる。施設から脱出して船に向かう途中、自分の名前が刻まれた墓石を見て悟ったのだ。ロスト・ボーイズたちの“人間時代”の名前を呼び、「彼らは私たちを実験台にした」と付け加えた。ニブスもウェンディと一緒に墓を見ており、自身の記憶の削除といった出来事もあったのでそれを理解している。
フェイスハガーに寄生されたアーサー(デヴィッド・リズダール)を運んだスライトリー(アダーシュ・ゴーラヴ)とそれを手伝ったスミー(ジョナサン・アジャイ)も自分たちがどう見られているのかに気付いている。カーリー(イラーナ・ジェームズ)だけは「私はボスのお気に入り」だと主張し、カヴァリエのことを庇おうとするが、ウェンディは「物語ではウェンディがピーターのお気に入り」と言い、“ウェンディ”という名前をつけられてない時点で“お気に入り”ではないことを分からせようとした。
そして「もう子どもじゃない私たちは監禁され、大人にもなれない」と、“ウェンディ”という名前を付けられた自身もピーター・パンである“カヴァリエ”の保護下にはいないと強調。そこでニブスが放った言葉が「私たちは幽霊」だった。
続けてウェンディは「幽霊は何をする?」と呼び掛け、“恐れる側”から“恐れさせる側”であるべきだと主張。まさに反撃の狼煙が上がった瞬間だった。監禁され、カヴァリエの監視下に置かれていたウェンディたちだったが、監視モニターを含め、電子系統の制御装置も自在に操り、ゼノモーフを呼び寄せ、この施設を支配し乗っ取った。

■のんきにやってきたカヴァリエが窮地に立つ
まだ優位に立っていると思っていたカヴァリエは、監禁されたウェンディたちの様子を見にきて、身の上話をしたり、“ハイブリッド”は「僕の所有物」「君たちは展示品」と言い放ち「全て台無しにしてくれた」と憤ったりするが、ウェンディがあっさり監禁されていた檻の鍵を開け、銃を構えてカヴァリエを警護していた者をニブスが容赦なくたたきのめしたことで形勢逆転に気付いた。
その上で発したウェンディの「逃げて」という言葉の威圧感は“恐れさせる側”のものだった。カヴァリエが初めて彼女たちに恐怖心を抱いて逃げたところから、ロスト・ボーイズによる大人たちへの逆襲がスタート。しかも、ウェンディはそれを「かくれんぼ」と呼んでいて、ゲーム感覚なのも恐ろしい。少し前までカヴァリエのことを信じていたカーリーも、「私はジェーン」と本当の名前を口にし、これで全員の気持ちが一つになった。
そんな中、ウェンディが「どうしようか」と迷っていたことが一つある。それは、兄ジョーのこと。ニブスを銃で撃ったことで“人間側”についたと考え、“敵”と見なそうとしているが、離れて暮らしていたときの手紙のやりとりを思い返しながら、結論づけられずにいた。そのウェンディを救ったのはスミーだった。彼が優しくハグし、ウェンディの中に残っている“人間性”を思い出させたようにも感じた。
そして「かくれんぼ」はウェンディたちの圧勝。監禁されていたケージの中に“大人たち”を閉じ込め、ピーター・パン気取りのカヴァリエには「ピーター・パンは成長しない少年だけど、あなたは違う。ずっと大人だった。意地悪で怒れる小さな大人」と、辛らつな言葉で現実を突きつけた。
■施設を脱走したタコ型エイリアン“T.オセルス”の行方は
これらの出来事と同時に起こっていることがある。一つはウェイランド・ユタニ社のユタニ(サンドラ・イー・センシンダイバー)が施設のある島に向かってきていること。新興企業として勢いづいていたプロディジー社だったが、終焉の時が近いのは明らかだけに、どう立ち向かうのか。
また、タコ型エイリアンの“T.オセルス”の行方も気になる。カヴァリエらはジョーに寄生させようとしたがウェンディに邪魔され、その隙に逃走してしまったが、浜辺で横たわるアーサーに寄生した。
羊ではなく人間に寄生したことで、“高い”と言われている知能を生かして、もしかしたら喋ることができるかも。何を考えているのか分からず、不気味な存在だったT.オセルスが、誰の味方につくのか。あるいは、ずっと観察してきた中で何か企てていたのか。その部分は謎のまま幕が下ろされてしまった。
いろいろな謎が残る最終話を終え、SNSには「最後の最後まで面白かった」「これはさすがにシーズン2あるよね」「エイリアンの広がりを予感させるラスト」「シーズン2待ってます!」「あの終わり方はシーズン2があると信じたい」などと称賛の声や、続編を希望する声が多く上がっている。
ネバーランドをウェンディたちが支配し、カヴァリエも捕らえられたプロディジー社は風前の灯。“5大企業”が世界を支配しているということで、プロディジーがもし消滅しても、ユタニ含めて4社が存在する。シーズン2があるならば、ウェンディたちもエイリアンも島から抜け出し、地球(アース)規模に舞台が広がっていくのだろうか。期待は膨らむばかりだ。
「エイリアン:アース」は、ディズニープラスのスターで全話配信中。
◆文=田中隆信


