がん患者でも死因は老衰と書きます
〈4日目〉
相変わらず30秒ほどの無呼吸があるが、今日は手を握り返すことが多く、顔を拭くとうれしそうに笑うそうです。
水をしみ込ませたスポンジは吸わず、舌で押し返す。それなのに、なんとビールのスポンジはチューチューと吸って、むせながらもゴクリと飲み込むらしい!
寿実子はいつまでも休めないので、明日から仕事に行くことにしたそうです。
〈5日目〉
意識低下。とうとう看取り態勢なのか……。
すると、Oさんのベッドから見える庭の正面に花火が上がったそうです。
「こんな3月の時期になんの花火だろう? じいちゃんが上げてるのかねえ」なんて話したそうです。
後から判明したことですが……。Oさんには、仲のいい施設仲間がいました。その息子さんが花火師になり、新人練習の花火だったようです。まさか、そんなつながりがあるなんて!

〈6日目〉
深夜に呼吸停止の連絡があり。朝8時過ぎに訪問しました。玄関をあけて、リビングに入るが誰もいません。そのうち、2人の孫娘が眠そうな顔で起きてきました。
Oさん、昨晩はずっと目をあけており、「じいちゃん、もう寝るね!」とみんな床についたそうです。
「明日は冷たくなってるんだろうね」と言いながら……。寿実子が深夜に起きたら呼吸が弱かったので、そろそろだと思ってみんなを起こしました。孫娘たちは、「あれ~じいちゃんまだ生きてたの~。待ってたの~?」と声をかけました。
みんなで、また息が戻ったらどうしようか、逝ったかな、逝ったかな、と見守りました。そして……「逝ったらしい?」という看取り。みんなが起きてきてから、3分くらいのこと。
「最期、顔がくしゃっとして……ありがとって感じで。ちゃんと最期は目を閉じました」。孫娘たちが看取りを報告してくれました。
寿実子も起きてきました。
「私たちも体力使い切ったよね。葬儀の後は大変だって聞いてるけど、きっと大変じゃないだろうね。『6日間の生前葬』って感じだった。最期はにっこり笑ってから目を閉じたのよ!」
するとM子が言う。
「お母さん、違うよ、目を閉じてから笑ったんだよ!」
こんな感じで、息を引き取った時の様子を楽しそうに報告してくれました。
それを聞きながら、死亡診断書を書いて渡します。僕は、「十分生きた」と家族が思えれば、がん患者でも死因は「老衰」にしています。Oさんはもちろん、「老衰」ということになりました。そう萬田診療所では、家族が死亡診断書の病名を決めるのです!
人は病気で死ぬのではありません。老化で死ぬのです。病気は老化の段階に名前をつけているだけで、治らないし、治療すれば死なずに済むわけではありません。病気にやられたわけでもない。誰もが老化して弱って死ぬのです。
それを認められれば、人は穏やかに逝ける。認められなければ、老化の治療にチャレンジして敗れる。死は「敗北」となってしまうのです。

