必ずしも美しさ=若さとはならない
時折彼女のエイジングを重ねた肌や、骨っぽい筋張った背中を強調するショットが入りますし、それと対比させるかのようにいわゆる「より若く、より美しい」自分であるスーの、パンっと内側からはるような肌の美しさ、さわりたくなるような魅力的な肉体、かわいらしいお顔が延々と映し出されるのも印象的。たしかに若さは美しいですが、美しさ=若さ、とは必ずしもならないはず。それを印象付けたシーンが、街中でたまたま再会した学生時代の同級生との場面。
事故を起こし、身も心もほとんどボロボロの状態で病院からでてきたエリザベス。そこに、にこやかに心から嬉しそうに声をかけてきた男性、彼は「久しぶり! 学生時代以来だね、君はあの時からずっと変わらなくて、世界で一番美しくて魅力的な女性だね」と、「今の、50歳の彼女」のありのままに対して深い愛情に満ちた言葉をかけてくれるのです。
彼のような「50歳になった自分」そのものを愛してくれる存在が身近に早い段階からいたのなら、もしかしたら彼女はサブスタンスを選ぶこと、なかったのかもしれません。しかし一部の心無い人の辛辣な言葉は大きな重しとなり彼女の日常を黒く塗りつぶし、結局は、仕事のためにも、自分の承認欲求のためにも「より若い美しい肉体を手に入れたい」という気持ちが勝ってしまうのでした。
ただの「狂気」で済まされない強烈なメッセージ
SF要素もあり、ポップに描かれている部分もありますが、女性も、男性も、この作品を観れば絶対に何か所かドキッとするタイミングがあるはず。パッと聞いたらひどい暴言だけど、これに近いこと、女性のみなさん言われてきませんでしたか? もしくは、あなたは誰かに対してこんなこと、感じたことありませんでしたか? とみんなに問いたくなるような言葉もたくさん。
それもそのはず、女性監督・ファルジャ氏が「これまでの自分の映画キャリアの中で経験してきたことをもとにこの映画を作った」と断言しているのですから。本作品はフィクションですが、根底にあるのは不条理な若さ信仰やルッキズムへの強烈な疑問符。社会への強い抗議そのものなのです。
ネタバレに繋がりますので詳細は避けますが、エリザベスに降板をもちかける男性が「50になればアレがなくなる」との発言をするシーンがあり、おそらくこれは生理のことを指している模様。なんてこと言うんじゃボケ! と憤りながらそのシーンを観ていましたが、エンディングに近づいてきたときに「そんなに血がでることがえらいなら、思う存分見せてやるわ!」と観客の度肝をぬくようなあるシーンにその伏線がつながっていたり。
ただの恐怖や「狂気」では済まされない、「誰のせいでこうなったの? ちゃんと目に焼き付けてよ?」という強烈なメッセージがもうすごいすごい。
年齢、性別に関係なくすべての人が観るべきサブスタンスとともに、どうぞ良いお年を。
<文/アンヌ遙香>
【アンヌ遙香】
元TBSアナウンサー(小林悠名義)1985年、北海道札幌出身、在住。現在はフリーアナウンサーとしてSTV「どさんこWEEKEND」メインMCや、情報番組コメンテーターして活動中。北海道大学大学院博士後期課程在籍中。文筆家。ポッドキャスト『アンヌ遙香の喫茶ナタリー』を配信中。Instagram: @aromatherapyanne

