介護の現場では、単に身体的なお世話をするだけでなく、利用者に対する接し方やマナーが重要視されています。接遇とは、思いやりの心をもって相手に接することで、相手によりよいサービスを提供することを指します。接遇マナーの基本として知られる5原則を日々のケアに取り入れ、利用者が快適に過ごせるよう努めることが大切です。では、この接遇の5原則とは具体的に何を指し、なぜ介護の現場でそれほど重視されるのでしょうか。本記事では、接遇5原則の概要と介護現場で重視される理由・目的を解説し、さらにそれぞれの原則を自宅介護で実践するポイントを解説します。

監修社会福祉士:
小田村 悠希(社会福祉士)
・経歴:博士(保健福祉学)
これまで知的障がい者グループホームや住宅型有料老人ホーム、精神科病院での実務に携わる。現在は障がい者支援施設での直接支援業務に従事している。
介護の「接遇の5原則」とは?介護現場で重視される理由と目的

介護の現場では、利用者との信頼関係を築くことが質の高いケアの基本です。そのため、技術や知識だけでなく、接遇がとても重要です。介護の接遇には5原則と呼ばれる基本的なマナーがあり、これは利用者の尊厳を守り、安心して生活できる環境をつくるための指針でもあります。本章では、介護の「接遇の5原則」の内容と、それがなぜ現場で重視されるのか、その目的について解説します。
介護の「接遇の5原則」とは
介護における「接遇の5原則」とは、介護士が利用者や家族と接する際に特に心がけるべき5つの基本マナーのことです。一般的には挨拶、表情、態度、言葉遣い、身だしなみの5項目を指します。
挨拶では相手に先んじて丁寧に声をかけ、表情は親しみやすく明るい笑顔を保ちます。また、態度は礼儀正しく相手の気持ちに寄り添う立ち居振る舞いを指し、言葉遣いは敬意を込めたわかりやすい話し方を心がけることです。さらに、身だしなみも清潔で相手に不快感を与えないよう配慮します。これら5原則を意識して実践することで、介護士は利用者に対して「あなたを大切に思っています」という気持ちを形で示すことができます。
介護の現場で5原則が重視される理由
介護の現場で接遇マナーの5原則が重視される理由は、利用者の尊厳を守り、安全で良質なケアを提供するためです。高齢や病気で自立が難しくなっても、一人の人間として尊重されたいという思いは誰もが持っています。例えば、挨拶をせずぞんざいな言葉遣いをすれば、利用者は子ども扱いされたように感じて深く傷ついてしまいます。
逆に、丁寧な敬語で明るく声をかけ笑顔で接すれば、利用者は安心感を抱き、介護士との間に信頼関係が生まれます。そうした信頼関係があってこそ、入浴や移乗など身体に触れる介助の際も抵抗が減り、事故の防止につながるのです。このように5原則を守った接遇は、利用者の心身の安定につながるため、介護現場でも重要視されています。
加えて、接遇の5原則が重視される背景には、介護施設や在宅サービス全体の信頼性を高めるという目的もあります。介護は人と人との関わりに基づいた仕事であり、どれほど高い技術を持っていても、態度が冷たかったり無愛想であったりすれば、利用者や家族からの信頼は得られません。
反対に、温かみのある声かけや丁寧な対応ができる職員は、利用者だけでなく同僚や地域からも高く評価されます。さらに、職場全体で接遇を意識することは、スタッフ間の連携や職場の雰囲気にもよい影響を与えます。
挨拶や声かけを大切にする風土が根づけば、チームワークが強まり、結果的にミスの防止や離職率の低下にもつながります。接遇は人に優しくするためのマナーであると同時に、働く人の心を整えるための習慣でもあるのです。介護現場での接遇意識の高さは、そのまま施設全体の雰囲気を表すものといえるでしょう。
接遇の5原則の目的
接遇の5原則を徹底する目的は、介護サービスの質を高めることにあります。介護士一人ひとりのマナーがよければ、利用者は終始気持ちよくサービスを受けられます。そして、日々の丁寧な対応の積み重ねが満足度を高め、ひいては利用者の生活の質(QOL)向上にもつながります。
また、接遇マナーの徹底は苦情やトラブルの予防にも寄与します。介護士が礼儀正しく思いやりのある対応をしていれば、利用者や家族からのクレームは減るでしょう。接遇マナーは介護職員同士のコミュニケーションにもよい影響を与え、職場の人間関係が円滑になるという副次的な効果もあります。接遇の本質は形だけの作法ではなく、おもてなしの心を形に表すことであり、それを実践することが利用者満足度とサービス品質の向上につながります。
接遇の5原則は、単なるマナー向上だけでなく、介護現場の組織文化を育てる意味もあります。例えば、職員同士が互いに挨拶や感謝を伝えることで、働く環境そのものが温かくなり、利用者にも自然とその雰囲気が伝わります。こうしたポジティブな循環が生まれると、施設全体のサービス品質が底上げされ、家族や地域社会からの信頼も厚くなります。
また、接遇の習慣は新人教育や人材育成にも有効です。入職直後のスタッフにとって「どのような姿勢で仕事に向き合うか」は重要なテーマですが、接遇の基本を学ぶことが、職業倫理を理解する第一歩です。介護職が誇りを持って働くための基盤としても、5原則の実践は欠かせません。
介護の「接遇の5原則」を実践するポイント

接遇5原則の意義を理解したところで、次にそれぞれの原則を実践する際の具体的なポイントを確認しておきましょう。挨拶・表情・態度・言葉遣い・身だしなみという基本は一見当たり前のようですが、忙しい自宅介護のなかでは意識していないと疎かになりがちです。それぞれの原則ごとに、自宅介護ですぐに活かせるコツや注意点を押さえておくことが大切です。以下では5原則①~⑤について具体的に解説します。
【接遇の5原則①】挨拶
介護において挨拶はコミュニケーションの基本です。ご家族、親族だからこそ毎日の挨拶を欠かさないようにしましょう。相手の目を見て穏やかな声のトーンで話しかければ、緊張を和らげ安心感を与えられます。大きすぎる声は威圧的になりうるため、適度な音量で笑顔とともに挨拶しましょう。常に自分から先に挨拶や声かけをするよう意識しておくとよいでしょう。
【接遇の5原則②】表情
介護を担う家族の表情は、言葉以上に印象を伝える力を持っています。常にやわらかな笑顔で接することで、「あなたを受け入れています」という安心感を示すことができます。高齢の方は家族の表情をよく見ており、介護者が疲れて険しい顔をしていれば「話しかけづらい」と感じてしまいます。
忙しい日でも、忙しさを顔に出さないことが家族の安心につながります。ただし、笑顔ばかりがよいわけではなく、悲しんでいるときには共感の表情、真剣な話のときには真摯な表情をするなど、状況に応じて適切な表情を心がけることも大切です。
【接遇の5原則③】態度
ここでいう態度とは、立ち居振る舞いや家族への接し方全般を指します。自宅介護では介護や育児、家事におわれてせわしなく動きがちですが、できるだけ落ち着いた動作を心がけましょう。背筋を伸ばして相手としっかり向き合い、ひざをついて目線の高さを合わせて会話するだけでも印象はよくなります。
逆に、腕組みや貧乏ゆすりなど落ち着きのない仕草は、無意識に相手を拒絶したり威圧したりしてしまうため注意が必要です。また、相手の話を最後まで傾聴する姿勢を常に持つことも大切です。介護者側に急ぎの用事があっても、お相手が話し始めたら手を止めて耳を傾けるようにしましょう。「自分の気持ちを聞いてもらえた」とお相手が感じることで、安心感と信頼関係が生まれます。
【接遇の5原則④】言葉遣い
言葉遣いは、そのまま介護されている方への敬意の表れです。たとえ家族であっても砕けすぎた言葉は慎みましょう。また、声の大きさやトーンにも配慮しましょう。大声すぎると怒っているように誤解されますし、小さすぎても聞き取れません。ゆっくりはきはきと話し、相手に合わせた適切な音量で伝えます。
さらに、否定的な言葉遣いはできるだけ避け、「できないよ」より「こうすればできるよ」と前向きな表現に言い換える習慣をつけましょう。親しみやすさと丁寧さのある言葉遣いが、介護されている方の自尊心を守り信頼関係を築くポイントです。
【接遇の5原則⑤】身だしなみ
最後の身だしなみも、接遇に欠かせない要素です。介護をしている方の身なりは、介護されている方に対して安心感・信頼感を与えるか、不安・不快感を与えるかの分かれ目です。ポイントは清潔で機能的であることです。
シワや汚れのない清潔な衣服を着用し、爪は短く整えます。派手なマニキュアや強い香水は避け、長い髪はまとめ、ぶら下がるアクセサリーは外すなど身だしなみを整えましょう。男性もひげの剃り残しに注意するなど、性別を問わず清潔感を心がけます。

