腰や首の痛み、手足のしびれなどの症状がみられる背骨や脊髄の病気は、加齢とともに誰にでも起こりうる身近な健康問題です。しかし、近年「MIST(最小侵襲脊椎治療)」という体への負担を大きく抑えた新しい治療法が注目を集めています。わずか1〜2cmの切開で神経の圧迫を取り除き、早期回復を実現するこの治療法は、高齢者や持病のある方にも適応しやすいのが特徴です。今回は、背骨や脊髄の病気の基礎知識から最新の治療法、そして治療後の生活のポイントまで、New Spine クリニック東京総院長の石井賢先生に詳しく解説していただきました。

監修医師:
石井 賢(New Spineクリニック東京)
慶應義塾大学医学部卒業後、同大整形外科入局。米国ジョージタウン大学メディカルセンター、ハーバード大学マサチューセッツ総合病院(MGH)に留学。慶應義塾大学医学部整形外科前特任教授。国際医療福祉大学医学部整形外科学の初代主任教授を務め、同大学三田病院・成田病院では副院長および脊椎センター長を歴任。現在も赤坂見附前田病院、北里大学北里研究所病院、江戸川病院などにて非常勤医師として診療にあたる。脊椎外科領域における最小侵襲脊椎治療(MIST)や頸椎疾患治療の第一人者として知られ、2027年にはドバイで開催される第1回国際頸椎学会総会の会長に選任されるなど、学術活動の評価も高い。日本整形外科学会専門医・脊椎脊髄病医・リウマチ専門医・脊椎内視鏡下手術技術認定医、日本脊椎脊髄病学会脊椎脊髄外科指導医、難病指定医(東京都)、最小侵襲脊椎治療学会理事、日本抗加齢医学会評議員。日本整形外科学会奨励賞、慶應義塾三四会北島賞、第1回国際頚椎学会AP Award、第79回アメリカ整形外科学会(AAOS)Award、第13回日本低侵襲脊椎外科学会 学会賞 ほか多数。
背骨の病気とは? 痛みやしびれを引き起こす原因を知る
編集部
はじめに、背骨や脊髄の病気にはどのような種類があるのか教えてください。
石井先生
背骨や脊髄の病気には、加齢による椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、すべり症、圧迫骨折、指定難病の後縦靭帯骨化症や黄色靭帯骨化症、首下がり症候群など様々なものがあります。これらは骨や関節の変形、神経の圧迫によって起こる病気で、加齢や姿勢の乱れ、筋力低下などが関係しています。軽い痛みやしびれでも、放置すると慢性化し歩行障害につながることがあるため、長く続く症状は我慢せず、早めに専門医を受診することが大切です。
編集部
背骨や脊髄の病気では、どのような症状が出るのでしょうか?
石井先生
腰や首の痛み、手足のしびれ、力が入りにくいといった症状が代表的です。神経の圧迫が強くなると、歩いている途中で足が重くなり、休むと回復する間欠性跛行が起こることもあります。進行すると排尿や排便に影響することもあるため、痛みやしびれが長引く場合は早めの受診が必要です。日常の小さな違和感にも注意を向けましょう。
編集部
背骨や脊髄の病気は、どのようなことが原因で発症しますか?
石井先生
主な原因は加齢に伴う椎間板や関節の老化です。長時間のデスクワークやスマートフォンの使用など、前かがみの姿勢を続けることもリスクを高めます。運動不足や体幹の筋力低下、肥満、骨粗しょう症なども要因となります。姿勢を整え、適度な運動やストレッチを習慣にすることで、将来的な発症リスクを抑えることが可能です。
MIST(最小侵襲脊椎治療)とは? 負担を抑えた新しい治療法
編集部
背骨や脊髄の病気に対する一般的な治療法について教えてください。
石井先生
多くの場合、まずは手術以外の保存療法から始めます。痛み止めの薬や神経ブロック注射で炎症や痛みを抑え、リハビリテーションで筋力や姿勢を整えます。生活習慣を見直すことで症状が改善することもありますが、強い痛みやしびれ、歩行障害などがある場合には手術も検討します。最近では、より体に負担の少ない治療法も選択できるようになっています。
編集部
負担の少ない治療法とは、どのような治療ですか?
石井先生
「最小侵襲脊椎治療(MIST)」といい、できるだけ体へのダメージを減らした脊椎治療です。手術では内視鏡や顕微鏡を使って、わずか1〜2cmの切開から神経の圧迫を取り除きます。筋肉や靱帯をできるだけ切らずにおこなうため、出血量や痛みが少なく、入院期間も短くなります。体への負担を抑えながら、安全性と確実性を両立できる治療として注目されています。
編集部
従来の脊椎手術と比べて、どのような点で負担が少ないのでしょうか?
石井先生
従来の手術では、10cm以上切開して筋肉を大きく剥がす必要がありました。MISTでは小さな切開で筋肉を温存できるため、出血量が少なく痛みも軽減されます。術後の回復が早く、早期に歩行や仕事へ復帰できる点が大きな特徴です。高齢の方や持病を持つ方にも適応しやすく、入院期間が短いことも大きなメリットです。
編集部
海外の方が治療を希望されることもあると聞きますが、現状を教えてください。
石井先生
海外の方にとっては、自国の医療費の高さや日本の医療に対する信頼の高さがあるようで、連日、複数のお問い合わせを欧米やアジア各国の方々からいただきます。まずオンラインで1時間ほど診察した上で、実際に来日される場合は、2〜4週間の滞在でMISTをおこなうことが可能です。また、日本の医療ツーリズムは、Medical Excellence Japan (MEJ)が日本政府の「医療・健康分野の国際展開」戦略の下、官公庁・医療界・産業界を横断する中核的な組織として活動しています。世界中の方々は日本の医療水準の高さを認識されているため、今後の更なる発展を期待しています。

