意識とはなにか? 眠り、夢、仮死状態、冬眠、そして死から考える「私たち」の正体|櫻井武

意識とはなにか? 眠り、夢、仮死状態、冬眠、そして死から考える「私たち」の正体|櫻井武

意識が消える瞬間について考える

意識を考えるということは、同時に「自己とは何か」を考えることでもある。
自己という感覚は、意識の最も近くにありながら、その実態はつかみにくい。
「私」という存在がどこまで広がり、どこで終わるのか――それを理解するためにも、意識の正体を探る必要がある。

私は、「意識」というテーマに向き合うにあたり、あえて「無意識」から迫ることを選んだ。
眠り、夢、仮死状態、冬眠、そして死――意識が途切れる瞬間を覗き込むことで、かえって意識の輪郭が浮かび上がるのではないかと考えたからである。

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意識は宇宙と無関係ではない

さらに、この問いは自己の問題にとどまらない。
意識という現象は、私たちの脳内だけで完結する話ではなく、宇宙そのものの在り方と関わっている可能性すらあるからだ。
「私の意識と宇宙に何の関係があるのか?」と思う人もいるだろう。
しかし意識は、自己と世界を結びつける認知の窓であり、私たち自身も宇宙の一部である。つまり、私たちの存在そのものが、この宇宙の成り立ちと無関係ではありえないのだ。

私たちの意識が生まれたのはなぜか?
宇宙の膨張を加速させるダークエネルギーや、素粒子に質量を与えるヒッグス場(ヒッグス粒子が存在する背景の場)の値、強い力と弱い力の絶妙な釣り合い、宇宙初期の揺らぎの加減――もしこれらの物理定数がほんのわずかでも異なっていれば、生命どころか星も銀河も生まれなかった。
私たちの宇宙は奇跡的な条件を備え、物質を生み、太陽系を生み、地球を生み、化学反応を育み、生命と知性、そしてついには「意識」という火を宿した存在を生み出した。

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この「なぜ条件がこれほど都合よくそろったのか」という問いに対して、ひとつの考え方が人間原理(anthropic principle)である。人間原理は、「私たちがここに存在できるのは、存在可能な条件の宇宙にしか生命は生まれえないからだ」と説明する立場だ。
この説明をさらに推し進めた仮説が、マルチバース(多元宇宙)である。無数の宇宙が存在し、それぞれ物理定数が異なるなら、私たちは「意識が生まれる条件が整った宇宙」にのみ存在することになる。他のほとんどの、そして無数の別の宇宙には観測者はいないことになる。

無限の宇宙の中で、偶然にも意識をもった私たちは、自分が生きていると感じ、世界の存在を問い、さらにはその宇宙を測ろうとしている。このこと自体、きわめて特異な現象だ。ひょっとすると、「世界を問う意識があるからこそ、この宇宙は存在している」という逆説も成り立つのかもしれないのだ。

本書は、そのような思索の旅である。
科学解説書というよりも、科学を土台とした自由な随想録だ。私は研究者としての視点をもちながらも、科学的正確さだけに縛られず、主観的な語りや断片的な物語を織り交ぜ、「意識」という根源的テーマを見つめていく。
本書は、最初に「意識」を定義して、それを語っていくというスタイルをあえて取らない。
意識とは何かを、少しずつ探っていく旅になるだろう。
読者の中にある「意識とは何か?」という静かな問いに、本書がそっと寄り添い、ともに歩む伴走者になれれば幸いである。

配信元: 幻冬舎plus

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