
長らくテレビを見ていなかったライター・城戸さんが、TVerで見た番組を独特な視点で語る連載です。今回は『M-1グランプリ2025』(ABCテレビ)をチョイス。
■『M-1グランプリ2025』全ネタをレビュー(FIRST ROUND)
今年のM-1が面白かったので、全ネタをレビューします。私はお笑いに関してあまりにも素人なので、見当違いなことを言い続けるうえ、無知ゆえの尊大さを伴った拙文を披露することになってしまいますが、あくまでも個人的な意見として受け止めていただけると幸いです。よろしくお願いいたします!
【ヤーレンズ】
少なくとも私のようなお笑いライト勢からして「ヤーレンズらしい」と感じる部分をそのままに、例年とは何かが違う、とも思わせる、まるで客足の絶えないバーガーショップだ。コントではなくしゃべくりである、というのがその違いであろうが、私はこちらのほうが好き。楢原がふざける用の物語でふざけまくることと、物語にいない野良の楢原がふざけまくることであれば、後者のほうがより彼の魅力が際立つ。今大会でひとつのキーワードとなった「練習した感」みたいなもの(もちろんそれが悪いとはまったく思わない)を比較的感じさせやすいコンビであるが、しゃべくりとなったことで、あまりに息の合った二人のやりとりが「物語」という上位存在に回収されることなく、われわれと同じ次元へと届いていく。面白かった。
【めぞん】
吉野おいなり君が妄想で提示するようなシチュエーションに普通に憧れがあるんで、前半は楽しく見ていたものの、「逃げろ!」のツイストをきっかけに「エモーショナルの傾向※https://thetv.jp/news/detail/1236030/」へと回収されていくのが残念だった。個人的には、こういったネタの笑い方が分からない。「アツい」ものを見て「笑う」ことは普通ないから、会場で起こっている笑いの正体は「大舞台でこんなことをやっている」というメタ的な視点によるものではないかと思うのだが、きっと私の知らない笑いのメカニズムが存在しているのだろう。
【カナメストーン】
炎のようなふたりと時間。血も爆発もそろったスペクタクル、スーツの色味か、二人のコミカルなアクションがそう思わせるのか、まるで人形劇を見ているような気分だ。運動神経が良いのだろう。泣いている赤ちゃんに見せたい漫才ナンバーワン。すぐにきゃっきゃと笑いだす筈。とはいえコミカル一辺倒というわけでもなく、時折見せるボケの繊細さというか、本当に不思議なコンビだと思う。私は未だに、センスの良い奴は声が小さくアンニュイで物静か、なんて平成的価値観に囚われているから、カナメストーンのような存在にはとまどうばかりだ。
【エバース】
さすがに面白い。こういう、両者に言い分が存在している理屈っぽい漫才が結局好きなんだよなあ。その前提として置いたアホなテーマを軸に、わりあい論理的に展開していく中でぶつかる現実的な壁や両者の意見の相違を、持ち前のセンスで笑いに昇華していくというのは方法論としても優秀に思え、まさに鬼に金棒。この一本目のネタを見た時点では、マジで優勝待ったなしだと思った。
【真空ジェシカ】
番組内でも言われていたように5年連続決勝進出の風格が漂っていながら、川北のやばさとガクの腰の低さから、未だに等身大な印象も持ち合わせる独特の存在。ネタも、いつもの真空ジェシカらしい安定した漫才で大変面白かったのだが、去年の神がかった2本のネタ(商店街とアンジェラ・アキ)を思うと、少しだけ物足りなさが残ってしまったのが正直なところ。川北の着てる幼少期の大鶴肥満のTシャツが面白かった。こういう芸能人同士の内輪っぽいノリが本当にうらやましい。楽しそう。
【ヨネダ2000】
こちらも運動で見せる漫才。私は歌ネタやリズムネタが苦手なので、好みとはだいぶ違ったのだけど、時折交わされる言葉での会話が面白かった。あややに得はない、とか。そこがちょっと不思議というか、「あややに得が無かったら面白い」という感覚が、ネタそのもののセンスと噛み合っている感じがあんまりしないんだよなあ。まあ、感覚の話をしたって人それぞれ違うのだからきりもなく、私はそういった台詞の応酬でのヨネダ2000を見てみたいと思った。
【たくろう】
今大会で一番笑った。これは散々言われているけれども、赤木の「その場しのぎで言っている」ようなオドオドした演技が凄い。完全に彼のキャラ勝ちというか、少なくとも私は、もう彼が何を言っても笑う状態に入っていた。それは演技力だけではなく、“モノの言い方”によるところも大きい。お笑いに限らず、コミュニケーションのすべてにおいては、同じ内容でも言い方次第で面白くもつまらなくもなるという当たり前の原則があるわけで、彼はその当たり前の原則を、当たり前にクリアしている。だから何を言っても面白いのだ。私はそんな人に恋をするわけね。モノの言い方を知ってる人に。
【ドンデコルテ】
こんな人たちがいたのかと感動しきりだった。振る舞いも、言葉の選び方も達者で、卓越している。たとえば「胡散臭い教祖を再現してみよう」と思ったところで、再現度を高くすることはできるだろうが、ああいった言葉を選び続けることは困難だろう。「目覚めるな」すごすぎ!半年間スマホを捨ててデジタルデトックスを図った結果パソコンをやりまくってしまった私からすれば、彼の言い分はよく分かる。この時代に自分と向き合うなんて、「ご冗談を」の一言である。
【豪快キャプテン】
これも面白かったなあ。ツッコミというより“はじき返し”な山下ギャンブルゴリラの振る舞いが、あんまり他にない感じで新鮮だった。しかもめちゃくちゃ早口なのになぜか聞き取れる、薄くたたまれた関西弁も新しい。ボン!ボン!ってキレよく発される台詞、なんかどうぶつの森を思い出した。それでいて繰り広げられるのが、エバースともまた違った、理屈の薄い言い争い。ひたすらアホらしいトピックを、ギャンゴリの緩急で泳ぎ続ける。ボケのべーやんは広島弁で、北九州弁の話者である私はちょっとした親近感を覚えたよ。
【ママタルト】
去年のM-1で初めてネタを見たママタルトは、あまりにも面白くて、「絶対こいつらが優勝だ」とゲラゲラ笑っていたら最下位で腰を抜かした覚えがある。自分の笑い声で、画面の向こうの会場ではあまりウケていないことに気付けなかったのだ。そんな邂逅から1年、ママタルトにそれなりに触れてきたうえで今回のM-1、もっとウケてもいいと思うのだけど、確かにちょっとだけ物足りない感じではあった。大ウケして優勝するようなネタには必ず“トロの部分”が明確にあって、今回のネタにはそれが見出せない。でも、やっぱり大鶴肥満は愉快なエンターテイナーだし、檜原は現代最高のツッコミである。
最終決戦へ。進出したのは、エバース、たくろう、ドンデコルテでした。これしかないというくらい、超納得の3組。
■『M-1グランプリ 2025』全ネタをレビュー(最終決戦)
【ドンデコルテ(2本目)】
面白い……。1本目の魅力を残したうえで、また少し毛色の違う漫才。「誰かのドラレコでお会いしましょう」、「こんな段差いつでも降りれるからな」、とにかく言葉が強い。彼の書く文章を読んでみたくなった。渡辺銀次は各政党から出馬オファーが殺到しているというくらいだから、きっと何かしらの文筆の依頼だって来ているはず。もし読めたら嬉しい。
【エバース(2本目)】
もちろん面白いんだけど、ちょっと話がややこしくて、「あれ、今どういう状況なんだっけ?」と混乱してしまった。私の理解能力が低すぎるのを棚に上げて話すと、1本目ほどは直感的に笑えるものではなかった印象。町田が直接的な変顔をしているのに「直感的ではない」とは不思議な矛盾だが、これはエバースに対する私の固定観念によるものだろう。エバースの漫才を見るとき私は、変顔そのもので笑う、というモードにない。彼らを“仮定の話のスペシャリスト”と見なしていて、対話のなかで登場した直接的な笑いのモチーフにはすべて、“いわゆる”がついてしまうのだ。「ここで現れた“いわゆる”変顔は、それそのもので笑うのではなく、彼らが“仮定の話”に組み込むための要素のひとつである」と脳が判断してしまう感覚がある。これが私の固定観念だ。ただ、それでも面白かったとは重ね重ね言っておきたい。
【たくろう(2本目)】
面白すぎ~。私はもう赤木が何を言っても笑うカラダになっている。むしろ、赤木は面白いことを言うだろうという強い信頼か。正直あまり書くことが見当たらない。文句なしの優勝、おめでとうございます!
はい。というわけで、全ネタのレビューでした。あくまで個人的な感想なので、適当に聞き流してもらえたら幸いです。今年はM-1が面白すぎた為か、見終えたあとに38.8度の高熱が出ました。病院に行っても原因不明でしたね。今も咳が止まりません。よいお年を!
■文/城戸

