「私がママを助けなきゃ」障害者の妹を世話する「きょうだい児」の葛藤。話題作の著者インタビュー

「私がママを助けなきゃ」障害者の妹を世話する「きょうだい児」の葛藤。話題作の著者インタビュー

きょうだい児が悩みを共有できる“優しい場所”が増えるように


『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より
『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より / (C)うみこ/飛鳥新社

『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より
『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より / (C)うみこ/飛鳥新社

――透子にお世話係を任せがちな母と、桃乃の療育には無関心な父。2人とも透子の苦しみについては配慮の及ばない様子が伺えますが、きょうだい児がこのような親との関係性に苦しむケースはよくあることなのでしょうか?

うみこさん:昔は透子の両親のようなケースが多かったのではないかと思います。今の時代は、父親も積極的に育児をするようになってきていますが、数十年前は母親が家事や育児をするのは当たり前の時代でした。障害についてもまだまだ理解が足りていなかったと思いますし、「父親は仕事、母親は家庭」みたいな、世間的な立ち位置があって、それが常識みたいな。だから、当時はそれがおかしいとは誰も思わなかった。

今ようやく、SNSが普及して、みんなが思ったことを言えるようになって、「あれ?うちの家、変かも」と気付ける世の中になってきた。昔に比べたら、少しずついい方向に変わってきているのではないかと思います。

――交際相手の洸平に妹のことをなかなか伝えられず、苦しむ透子の姿が描かれています。実際に、周りの人に打ち明けられない悩みを持つきょうだい児の方は多いのでしょうか?

うみこさん:多いと思います。今まで障害者と関わったことがない子たちは、どう接していいかわからず戸惑うこともあると思います。そういった時の友達の反応などを見て、きょうだい児たちは傷ついてしまう。そういう経験がいつまでもトラウマになって、気軽に人に言えなくなってしまったりするのではないでしょうか。

どんな反応をされるかは人によって違うので、受け入れてくれるかすごく不安だと思うし、それならもう言わない方が楽、という選択をする方も少なくないのではないかと思います。


『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より
『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より / (C)うみこ/飛鳥新社

『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より
『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より / (C)うみこ/飛鳥新社

「きょうだい児」たちが悩みを共有できる場所を


――お話の後半には、「きょうだい児の会」に参加した透子が自分の気持ちを受け入れてもらえたことに涙するシーンがあります。このような場は、実際にきょうだい児の方々の拠り所として活用されているのでしょうか?

うみこさん:はい。取材させていただいた方にもきょうだい児の会を立ち上げた方がいらっしゃいますし、監修をしていただいたSibkoto(シブコト)さんもきょうだい児支援を積極的にされています。

ただ、障害者の親たちは支援学校などで同じ境遇の仲間が出来ますし、情報交換の場は多いと思うのですが、きょうだい児への支援は、特に地方だとまだまだ少ないのかなという印象です。また、周囲に知られたくないと思う方も多いので、広まりにくいんだと思います。

だからこそ、もっと交流の場が広がってきょうだい児の方の悩みを共有できる優しい場所が増えたら嬉しいです。


* * *

きょうだい児が抱える不安や孤独は、まだ十分に語られていません。「自分の気持ちを話せる“優しい場所”が増えてほしい。ひとりで抱え込まないでほしい」と話すうみこさん。その願いは、作品を通して多くの共感を呼び、静かに社会の中へと広がっています。


取材・文=宇都宮薫
配信元: レタスクラブ

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