日本の作品、海外でチャンスも
アルパカ 文芸界のトピックスというと、第一七三回芥川賞・直木賞が「該当作なし」になりました。書店の売り上げが減るんじゃないかとか、マイナスイメージが先行しましたけれど、意外にそうでもなかった、と僕は思っていて。
コグマ そうですね。受賞作がないなら、うちの書店ではこれを売ろうとか、そういう傾向が見えましたよね。
アルパカ 書棚の一等地がぽっかり空いて、書店員にとっては腕の見せ所になりましたね。業界だけではなくて、一般ニュースとして話題になりましたし。
コグマ 両賞が該当作なしだったのは、一九九七年下半期の第一一八回以来。じつに二七年ぶりの出来事だったんですが、その時の直木賞候補って、北村薫さん、折原一さん、京極夏彦さん、桐野夏生さん、池上永一さん。で今回、該当作なしの選考結果を説明してくださったのが京極さんでした。
アルパカ そういう巡り合わせも含めて話題になってよかったですよ。一般人が賞を選考する「かってに芥川賞・直木賞」もSNSでバズってました。面白がる材料になったと前向きに考えたいです。
コグマ 売り上げの増減については、どんな本が受賞していたかにもよるので、ちょっと分かりませんが、話題的にはマイナスにはならなかった。
アルパカ イメージとしてはプラスだったかもしれない。賞レースは本気なんだって、改めて気づかされたし、そもそも両賞がどういうものなのか、原点に立ち返って見つめ直す機会にもなった。選評をちゃんと読みたくなったっていう声も聞きましたね。
コグマ 最近では一番読れた選評だったかもしれない。
アルパカ 王谷晶さんの『ババヤガの夜』が、世界最高峰のミステリー文学賞と言われる英国のダガー賞(翻訳部門)を日本作品として初めて受賞しました。日本の文学各賞の基準ではなかなか評価し切れなかった作品です。それが由緒ある文学賞を獲得したのはうれしかったですね。
コグマ どう英訳したんだろう、と思うような言葉もいっぱい出てきますよね。
アルパカ 受賞のニュースをきっかけに読んだ人が、こんな作家がいて、こんなに面白い作品があったんだって感動していました。
コグマ 出版人としては、河出書房新社の力強さを改めて教えられた気がしました。
アルパカ 海外での高評価が日本にフィードバックされたのは、柚木麻子さんの『BUTTER』もそうです。英国で文学賞を取って、フェミニズム小説として絶賛されています。
コグマ 海外で翻訳出版される小説が増えていますよね。マーケットがシュリンクしているとか、そんな言い訳をしていたらダメですね。あるエージェントが「いま日本の小説がブームでしょう」って言うんですよ。国内ではそういう感覚を持てないんですが、海外版権を扱っている方にとっては、日本の小説は売れ筋なんですね。
アルパカ 反響の良さは伝わっていますよ。逆輸入じゃないですが、『BUTTER』も海外での評判がきっかけで売れ出した。もともと力のある作品でしたけど、バズったのは海外で評価されたのが影響しています。日本文学は世界から愛されているし、求められている。それは誇っていいし、世界中に日本文学の読み手がいるということは、もっと噛み締めなきゃいけないと思います。
(第2回へ続く)

