
新年の食卓で目にする「お屠蘇(とそ)」。「ただの日本酒」だと思っていたり、「御神酒(おみき)」と混同していたりする人も少なくありません。じつはこのお屠蘇、一年の無病息災と長寿を祈って正月に飲む特別なお酒なのです。「現代礼法研究所」主宰の岩下宣子先生に、その意味や正しい作法について聞いてきました。
薬草の力で健康長寿につながり、食べ過ぎにも◎
地域によっては日本酒をお屠蘇代わりに用いる場合もありますが、本来のお屠蘇は薬草酒。体を温め血行を促す「陳皮(チンピ)」や、発汗・解熱・整腸作用のある「桂皮(ケイヒ)」など、5〜10種類の生薬をブレンドした「屠蘇散(とそさん)」を漬け込んで作ります。
この「屠蘇散」、スーパーや酒店でも手軽に購入できます。
お屠蘇の作り方は簡単です。
屠蘇散を日本酒や本みりんに5〜8時間ほど漬け込むだけ。
日本酒を多めにすればキリッとした辛口に、みりんを多くすると甘くまろやかに仕上がります。
「子どものいる家庭なら、本みりんのみで作るか、アルコール度数の低い白ワインを使うのもいいでしょう」と岩下先生。
寒さによる冷えや食べすぎが気になるお正月、薬効も期待できるお屠蘇はぴったりの一杯です。
正式な作法では、お屠蘇は三段重ねの盃を使っていただきます。
屠蘇器がない場合はおちょこでもOK。
一つの盃に3回に分けて注ぎ、それを3回に分けて飲み干しましょう。
飲む順番にも意味があります。
岩下先生によると「年少者から年長者へと順に飲むのがしきたりです。これは『若い人の生命力や活力を年長者がもらう』という考え方に由来するそうです。小さい子どもが口にする場合は、なめる程度で十分でしょう」とのこと。
お屠蘇と混同されがちなお酒に「御神酒(おみき)」があります。
こちらは神様にお供えするお酒のことで、神前に供えたあと、その霊力の宿ったお酒をいただくことでご利益を授かるとされ、日本では太古から儀式として行われてきました。
「御神酒は初詣や厄除けなどで神社を訪れた際にいただくことがあります。家庭でも神棚などに清酒(日本酒)を供えたあと、家族で分けて飲むと、神様の力をいただけますよ」
素焼きの「かわらけ」で飲むのが正式ですが、おちょこを使っても問題はないので、こちらは大人たちでどうぞ。
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お屠蘇の由来にはいくつかの説があります。「悪鬼『蘇』を屠(ほふ)る」とか、「鬼邪気病を追い払って、新しい魂を蘇らせる」という意味がある、などです。いずれにしても、お屠蘇は単なる祝い酒ではなく、新しい年を健やかに生きる力を授かる儀式。年の初めに、家族で盃を交わしながら、お互いの健康を祈る時間をもつのも楽しいのではないでしょうか。

教えてくれたのは…
▶岩下宣子先生
「現代礼法研究所」主宰。NPOマナー教育サポート協会理事・相談役。30歳からマナーの勉強を始め、全日本作法会の故・内田宗輝氏、小笠原流・故小笠原清信氏のもとでマナーや作法を学ぶ。現在はマナーデザイナーとして、企業、学校、公共団体などで指導や研修、講演会を行う。『40歳までに知らないと恥をかく できる大人のマナー260』(中経の文庫)、『相手のことを思いやるちょっとした心くばり』(三笠書房)など著書多数。近著に『77歳の現役講師によるマナーの教科書 本当の幸せを手に入れるたったひとつのヒント』(主婦の友社)。
文=高梨奈々

