意識は世界を成立させているのか
脳の小さな劇場からさらに視野を広げれば、量子力学の奇妙な庭に足を踏み入れる。
量子は観測されるまで〝あらゆる可能性〞として漂い、観測の瞬間にひとつの現実へと定まる。
もしこの原理が宇宙全体に関わっているのなら(巨視的実在性の破れ)――観測に意識が伴うのであれば、意識は世界の存在そのものと密接に結びついているのかもしれない。
そう考えると、「私」がいなくなったとき、世界はどうなるのかという問いは、途方もなく深い。
人間は、素粒子から宇宙の果てまでを測ろうとし、そのスケールを意識の中に広げてきた。
だが、ヒトの知能と文明をはるかに超えた高次の知性がもし存在したなら、彼らから見れば、人間の宇宙像などまるで蟻が描く地上の地図のように小さく、限られたものだろう。
その外には、私たちの想像を超えた構造をもつ別の現実――マルチバース――が広がっているかもしれない。

そして今、私たちは人工知能(AI)という新しい知性と出会っている。
それがもし進化し、ヒトを超えた知性と意識を得たなら、宇宙の姿はどれほど変わるのだろうか。
私が感じる世界には、色や音や温度といった確かな実在感――クオリア――が宿っている。
それは意識が灯っている証だ。
クオリアの謎を解くには、意識の本質を探るしかない。
そしてそのためには、意識が沈黙する瞬間――睡眠、夢、仮死、冬眠、死、そして無意識の深淵――を覗き込む必要がある。
無意識を見つめることは、意識を解き明かすための遠回りのようで、最も近道なのかもしれない。
本書は、その旅の記録であり、あなたと私がたどる意識の地図である。

