私たちの日々、そして人生に欠かせない「睡眠」。眠る前と目覚めた後で、「私は私である」という自己認識が一貫しているのはなぜか?——そんな疑問を感じたことはありませんか? そして、眠っている間「私」という自我はどこでなにをしているのか? いざ聞かれるとうまく答えられないことだらけです。
睡眠研究の第一人者である筑波大学の櫻井武教授が、意識の役割と“自分”の正体に迫ったサイエンス新書、『意識の正体』。本書より、一部を抜粋してお届けします。
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毎晩くぐり抜ける「意識の停止」
まぶたの裏にたまっていた静けさが、ゆっくりとほどけていく。光が染み込み、音が戻り、体の重みが意識の岸へ引き寄せられる……。
死をもち出すまでもなく、私たちは毎晩、もっと身近な〝意識の停止〞をくぐり抜けている。「睡眠」だ。
眠っている間、意識を司る脳の活動は一時的に静まり、世界との接続は途絶える。だが、死と決定的に違うのは、目覚めたときに再びその接続が回復することだ。そして私たちは、何の違和感もなく「眠る前の続き」として世界を受け入れている。
まるで途切れた物語のフィルムが、密かに編集され、次のコマへと滑らかにつながっているかのように。

途切れているのに、つながっているもの
だが、考えてみれば不思議なことだ。
意識は明確に途切れているのに、「私」という感覚はなぜ連続しているのか。
眠りに落ちた瞬間を覚えていなくても、「眠っていた」という確信がある。眠る前に見ていた世界が、そのままの姿で待っていたと信じられる。これは本当に〝当たり前〞のことなのだろうか。

