無意識が問い返す「私」と「世界」
睡眠以外の〝無意識〞ではどうだろう? たとえば、全身麻酔はこの自己史ともいうべき物語を断ち切る。
そこには夢も時間感覚もなく、ただ〝無〞が広がる。目覚めたとき、世界はゼロから立ち上がる。その質感は、睡眠からの覚醒とはまったく異なる。
この違いは、人工冬眠や死、そして人工知能(AI)の意識を考える上でも、深い示唆を与える。
意識が消えても、〝私〞は続くのか。
私がいなくても、〝世界〞は続くのか。
意識のどこまでが「私」なのか。
AIは、この儚い光を宿せるのか。

本書は、この問いの深みに降りていく旅である。
覚醒の狭い光と、無意識という広大な闇。その境界で、自己はどのように姿を保ち、再びかたちを得るのか。
意識とは、暗い海の上に一瞬だけ浮かび上がる灯火のようなものだ。
それでも私たちは、夜ごとその灯を消しながら、〝私〞という物語を途切れさせることなく紡ぎ続けている。
そしてまた、今夜もその光を沈め、夜明けとともに新しい「私」を迎え入れるだろう。
そして、無意識は覚醒の中ですら重要な仕事をし続けている。

