
風間俊介&庄司浩平…かわいい上司&実は健気なわんこが見せる絶妙なケミストリー「40までにしたい10のこと」を振り返る<前編>
2025年7月期に放送され、旋風を巻き起こした風間俊介主演、庄司浩平共演のドラマ24「40までにしたい10のこと」(テレ東系ほか/Leminoにて配信)。ザテレビジョンのドラマアカデミー賞第125回では風間が主演男優賞、庄司が助演男優賞を獲得し、監督賞も受賞した。本記事ではこれほど多くの人に指示されることとなった同ドラマの魅力をあらためて振り返る。
■人気コミック原作の大人のオフィスラブストーリー
同ドラマは累計発行部数100万部を突破し、BLアワード2024総合コミック部門で1位に輝いたマミタ原作による同名コミックの実写化。40歳目前の枯れた上司とアラサーのクールな高身長イケメン部下が織りなす大人のオフィスラブストーリーとなっている。
10年以上恋人がおらず、代わり映えのない毎日を送っていた十条雀は、ふとしたきっかけで書いた「40までにしたい10のことリスト」を、10歳年下のイケメン部下・田中慶司に見られてしまう。慌てる雀に、慶司はリストを一緒にやっていくことを提案。自分もゲイであることを告げ、「俺はあなたのこと余裕で抱けます」と雀にアピールする。
雀は多数の作品で多彩な役柄を演じてきた風間が、慶司は本作でブレイクを果たした「仮面ライダーガヴ」の庄司が演じている。
■BLアワードコミック部門1位の流れを踏襲した実写化
実は、同作の制作発表を当然のこととして受け止めたBLファンは少なくなかった。前述したように原作はBLアワード2024総合コミック部門で1位となっており、この賞はBL界のアカデミー賞のような位置づけで、コミック部門は作品賞に匹敵。その年のBLの顔と言うべき作品に贈られ、BLアワードのコミック部門1位となった作品の多くは実写化される流れができつつあった。「ワンルームエンジェル」しかり、「オールドファッションカップケーキ」しかり、「体感予報」しかりと言った具合だ。
そんなわけで本作の実写化に驚きはなかった。しかし、ついに実写化されるのかと期待が膨らむと同時に、キャストとキャラクタービジュアルの発表に原作ファンとして一抹の不安も過った。結果的に杞憂に終わったのだが、作品の世界観をしっかり受け継いでくれるのだろうかと心配せずにはいられなかったのだ。
■気になる点もあったキャラクタービジュアルだが…
実写化に際し「仕事ができるアラフォーだけど、かわいらしいサラリーマン」という雀を3次元化することが可能なのかどうかは、本作の成否を分ける重要なポイントと言えた。しかし、風間の名前を見て「その手があったか!」と“してやられた感”があり、キャラクタービジュアルを見て一瞬で腑に落ちた。ちゃんと雀を構成する上で大切な要素、“仕事ができそう”も“アラフォー”も“かわいい”も備えており、風間は、雀を演じる俳優としてまさにハマり役だった。
しかし、庄司扮する慶司のビジュアルは予想外だった。原作キャラがストレートヘアだったのに対して庄司のキャラクタービジュアルはウェーブがかかっているヘアスタイルであり、無造作でラフな印象が感じられた。いや、慶司がラフではないかと言われれば、そうではない。生真面目な雀とはまったくタイプが違う、相容れなさそうな、住んでる世界が違うキャラクターで、だからこそ、この2人の恋愛が面白い作品ではある。
しかしながら、慶司は一見ラフであるかのようにに見えるが、それは彼の生来の性質だけではなく、処世術として身につけて徐々に形成していったのであろう身のこなしであり、中身まで根っからラフなわけではない。根は誠実で臆病で優しく繊細なところがあるのが慶司なのだ。
そこが表現されるのかキャラクタービジュアルだけでは確信が持てず、慶司がラフな印象だけをまとったキャラクターにとどまってしまうのではないかと、気を揉んだ。ただ、後述するが、これも杞憂で終わり、演じてくれた庄司や制作陣には今となっては感謝しか無く、今となっては庄司以外の慶司は考えられないほどだ。
■第1話からすでに雀を応援したくなり、慶司も好印象
いざ第1話を見たときの新鮮な感動は今も忘れない。雀のクッションのすず子をはじめ、ファンシーな小物たちとともにひとり、慎ましく平和に暮らしている雀はその姿がまず愛らしい。オープニングではタイトルで雀と慶司が上下に分かれて配置され、原作コミックスの表紙を彷彿とさせる。なにも原作を忠実に再現することが望ましいとは必ずしも思わないが、原作ファンとしてリスペクトが感じられるとやっぱり嬉しいものだ。
ドラマの主軸でもある「40までにしたい10のことリスト」を挙げていく雀にはアラフォーで独り身でいる寂しさがにじみ出ていて切ない。自然と彼の幸せを願い、すでに応援したい気持ちにさせられたのは筆者だけではないはずだ。
そして、気になっていた慶司のほうだが、彼もまた違和感なくしっかりと“慶司”として存在していた。一見、ひょうひょうとしたラフな印象を受けたが、実際に動いていると声が低めなところも相まって落ち着いていてとても感じよく、キビキビとしていて仕事ができる人間だと伝わってくる。きちんと挨拶ができ、素直に感謝の言葉がすっと出るところは誠実で人として好感が持てる。そのうえで、2人きりになると「俺はあなたのこと余裕で抱けます」とちょっと強引にグイグイとアピールする様子には胸がときめいた。
■見ていて涙があふれるほど、心に響くキャストの掘り下げた演技
さらに雀は原作で登場する熊の着ぐるみパジャマの姿も見せてくれた。まさかドラマでもこの着ぐるみパジャマ姿が拝めるとは思っていなかったし、これを着て3次元でこんなにしっくりとはまることに驚かされた人も多いだろう。風間は雀の要素を纏っていて期待通りどころか想像以上に応えてくれた。
そして、慶司については本当は真面目で思いやりがあることが感じられてどんどんと好感度が上がっていたところ、第6話で決定的に大好きになった。慶司の誘いでジムに行ったあと雀の家に行くことになり、慶司は「おいで」と隣に座らせておでこにキスをする。
雀の家に誘われるとすぐさま反応して、まるで尻尾を振っているわんこのように喜んでいるのが見て取れてかわいい。家では、ふいにタメ口を聞くつかみどころなさを見せつつ慎重に雀に触れる。そのあと、空気を変えてコーヒーを手にすると、その手や口もとがわずかに震えてゴクリと喉を鳴らしてコーヒーを飲み、実は彼も緊張していることが痛いほど伝わってくる。
もう、この雀への思いを隠しきれずにいる慶司は見ていてギュッと抱きしめたくなった。タメ口をきいて「おいで」とグイグイと攻めているように見えて、きっと慶司はこれまで築いた雀との仲を壊さぬように、それでも1歩進めるように、大事に大事に距離を縮めていったのだろう。何度見ても慶司の健気さに涙があふれるほど心が揺さぶられる。物語の結末を知っていても、その一途さは色褪せることがないのだ。
◆構成・文=牧島史佳
