
「ずっと昔から結婚できないと思っていた」
障害のある兄弟姉妹を持つ“きょうだい児”。その心の中には、家族を愛する気持ちと葛藤、そして誰にも言えない複雑な想いが共存しています。そんなきょうだい児の葛藤を描いて注目を集めているのが、今年8月に発表された作品『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』です。
この作品の主人公・透子は、幼い頃から重度の知的障害がある妹の世話を担い、親や友人との関わりに悩んできました。婚約者の家族との顔合わせの場で突如として婚約を破棄され、手切れ金を差し出されるという衝撃的な出来事を経て、彼女が自分を取り戻していくまでの過程を描きます。
著者のうみこさんは、「きょうだい児とひとことで言っても、その悩みや立場は本当に人それぞれ」と取材を通して気づいたと言います。今回は、そんなうみこさんに、作品を描き上げた今現在の思いなどを伺いました。
『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』あらすじ


幼い頃から障害のある妹の世話をしてきた透子。妹は生活のすべてにおいて介助が必要で、母親がパートに出ているときはそのすべてを透子が担ってきました。最初は母親のためにと頑張っていた透子も、やがて「妹から離れたい」と願うようになります。

県外の大学へ出たいという透子の希望を知ったとき、母は「家から通える大学にして」と言い、父は「大学くらい好きに選ばせてやれ」と対立しました。どちらの気持ちも痛いほどわかる透子は、「誰も悪くない」と理解しながらも、「どうして私だけが……」という思いを消せずにいました。


実家を離れ、恋人の洸平やたくさんの友達たちに囲まれて過ごす毎日はとても楽しく、自由。けれど、妹の存在は誰にも話していません。「みんなが“普通”に接してくれるのが、心地いい」それでも、洸平との将来を考えるたび、妹のことを隠し続けることに不安を覚えます。


「洸平と結婚しても、桃乃は関係ない――」そう思いながらも、桃乃の存在が“一生逃れられない負債”のように感じてしまう透子。
「このことを知ったら…洸平はなんて言うだろうか」
同じきょうだい児の立場であっても抱える悩みは人それぞれ
――「きょうだい児」をテーマにして作品を作るときに気をつけたこと、そして、大切にしていることなどあれば教えてください。
うみこさん:「きょうだい児」とひとくくりにされがちですが、実際には、障害のある兄弟姉妹との関係が良好な人、表面上は関係を続けていても、その内面では複雑な感情や葛藤を抱えている人、家族と縁を切る選択をした人など、その想いや立場は驚くほど多様です。悩んでいることや困りごとも、それぞれの立場や家庭環境、障害のある兄弟姉妹の特性、きょうだい児自身の年齢によっても変わっていくと感じます。

きょうだい児の抱える悩みや状況は人によって大きく異なります。同じ立場であっても、正反対の意見を持つことすらあります。多くの当事者の方々と話を重ねる中で、「きょうだい児は皆こうだ」と一括りに語ることはできない、と強く実感しました。そこで本作では、あくまで主人公・透子という一人の人生を丁寧に描くことを大切にしています。
その一方で、きょうだい児の多様さを知ってもらえるように、複数の当事者の方の考え方やエピソードを入れる工夫もしています。たとえば「結婚」の描写では、透子が家族だけの小さな式を選ぶ一方で、障害のある兄弟姉妹とバージンロードを歩いた人、籍のみを入れて式を挙げなかった人など、さまざまな選択の形を紹介しています。



