アルコールは消化管に直接触れるため、胃腸への刺激が避けられません。胃粘膜の損傷や腸内環境の変化により、消化機能全体に影響が及びます。さらに膵臓では、急性膵炎や慢性膵炎といった重篤な疾患を引き起こすリスクがあります。血糖値の変動や栄養素の吸収不良も問題となり、全身の代謝バランスが崩れやすくなります。消化器系への負担を理解し、適切な飲み方を心がけることが健康維持につながります。

監修医師:
小坂 真琴(医師)
2022年4月~2024年3月、今村総合病院(鹿児島県鹿児島市)で初期研修を修了
2024年4月よりオレンジホームケアクリニック(福井県福井市) 非常勤医師として在宅診療を行いながら、福島県立医科大学放射線健康管理学講座大学院生として研究に従事
2025年10月よりナビタスクリニックに勤務
週1度、相馬中央病院 (福島県相馬市) 非常勤医師として内科外来を担当
消化器系と代謝への広範な影響
アルコールは飲んで数時間で体に影響するだけでなく、長期的には胃腸や代謝にも大きな影響を及ぼします。消化管は食べ物を受け入れる入り口であるため、アルコールが触れる時間も長くダメージを受けやすい部分です。また、栄養吸収やホルモン分泌にも関わるため、アルコールの作用が続くと全身の健康状態にまで影響が及びます。
胃腸への刺激と消化機能の低下
アルコールは胃粘膜を直接刺激し、胃酸の分泌を促進します。少量であれば食欲増進効果が期待できますが、過度な摂取は胃粘膜の損傷を招きます。急性胃炎や胃潰瘍、逆流性食道炎のリスクが高まり、腹痛や吐き気、胸やけといった症状が現れることがあります。飲酒後にムカムカする、胃が熱いように感じるといった経験は、胃粘膜が刺激されているサインです。飲み会の翌日に胃が重たく感じるのも、粘膜のダメージによるものと考えられます。
腸管においても、アルコールは粘膜のバリア機能を低下させます。その結果、腸内細菌のバランスが崩れたり、有害物質が血液中に入りやすくなったりします。慢性的な飲酒は下痢や便秘といった消化器症状を引き起こすだけでなく、栄養素の吸収不良にもつながります。特にビタミンB1やB12、葉酸といった水溶性ビタミンの吸収が阻害されやすく、神経障害や貧血の原因となることがあります。
胃腸は普段から酷使されている臓器でもあるため、無理が重なると一気に症状が悪化することもあります。飲酒を楽しむ際は、空腹時を避けたり、刺激の強い食べ物と組み合わせないなど、胃腸への負担を抑える工夫が大切です。
膵臓と糖代謝への影響
膵臓は消化酵素とインスリンを分泌する重要な臓器ですが、アルコールによって損傷を受けやすい部位でもあります。急性膵炎は大量飲酒後に突然発症することがあり、激しい腹痛や嘔吐を伴います。これは膵臓が自分自身を“消化”してしまうような状態で、命に関わることもある非常に危険な疾患です。慢性膵炎に進行すると、消化不良や体重減少、糖尿病を発症するリスクが高まります。
アルコールは血糖値にも影響を与えます。食事と一緒の飲酒では血糖が上昇しやすいものの、アルコール単独では上がりにくく、その後に低血糖を起こすことがあります。これは肝臓でのグルコース産生が抑制されるためです。糖尿病の方、または空腹時での飲酒は、低血糖による意識障害のリスクがあるため、特に注意が必要です。
膵臓は一度ダメージを受けると回復が難しい臓器のため、「痛みが出たら注意」というよりも、痛みが出る前の予防が重要です。過度な飲酒を避け、食事のタイミングや内容にも気をつけることで、膵臓の負担を減らせます。
まとめ
アルコール飲料は適切に利用すれば、生活に彩りを添える嗜好品となりますが、その作用や影響を正しく理解していないと、健康を損なうリスクがあります。本記事で解説したように、アルコールは中枢神経系に作用し、身体的・精神的にさまざまな影響を及ぼします。依存症は誰にでも起こり得る疾患であり、早期発見と適切な対処が重要です。自分の飲酒習慣を定期的に見直し、気になる点があれば早めに医療機関や専門機関に相談することをおすすめします。
参考文献
厚生労働省「アルコール健康障害対策」
国立病院機構 久里浜医療センター「アルコール依存症について」
e-ヘルスネット(厚生労働省)「アルコールの吸収と分解」
国立精神・神経医療研究センター「薬物・アルコール関連障害」

