物乞いや遊女など、経済格差を背景にした目を背けたくなる当時の現実が映し出されており、作中にはどんよりとした薄暗い雰囲気が立ちこめている本作。同時に、クスッと笑えるシーンも随所にあり、不思議な可笑しさを含んでいる。シリアスとコメディが共存する、朝ドラの中でも異色な空気感はどのように作られているのか。制作統括を務める橋爪國臣氏に聞いた。救いのなさの中に笑いを残す脚本術
『ばけばけ』の独特なバランスには、脚本を手がけるふじきみつ彦のスタンスが大きく関わっているという。「ふじきみつ彦さんは、救いのない展開の中にも明るさを見出せる脚本家です。その時は不幸のどん底にいても、数年後に思い返すと『本当に当時はひどかったな』と笑い話にできることって多いですよね。
小泉夫婦も決して順風満帆ではなく、しんどい瞬間も少なくなかったと思います。ですがそんな暗闇の日々の中でも、笑える日もあったはずです。明るさ、暗さ、どちらか一辺倒にならない脚本になっていて、それをトキ役の髙石あかりをはじめとしたキャスト陣が丁寧にすくい上げ、本作の空気感ができているのかなと思います」
とはいえ、ふじき氏は暗い話を書くことがとにかく嫌いな人のようで、「脚本の打ち合わせをする時には、うだつが上がらない雨清水三之丞(板垣李光人)のシーンを書くことを本当に辛そうにしていました」と振り返った。
ウケを狙わないからこその可笑しさ
笑えるポイントが多いことも、ふじき氏の脚本の妙だろう。コメディ部分の描き方について「脚本は面白いのですが、『現場では笑わせない』ということは意識してます」と答える。
「ふじきさんはコントを手掛けてきた経験も長く、基本的には笑わせたい人ではあります。ただ、ふじきさんの脚本は、ウケを狙って演じると、途端に笑えなくなります。これはふじきさんの脚本の特徴で、“真面目に生きている人を一歩引いた時に見えてくる面白さ”を描くことに長けているので、現場ではみんな真面目に演じてもらっています」視聴者にウケているかどうかは放送されなければわからない。撮影現場ではウケているのか役者陣も不安だったように思うが、「やはりその不安からか、大きな芝居をして笑いを起こそうとする瞬間もありましたが、そこは『ダメです』と言います。ただ、今は放送も進んで、その心配はなくなりました」と語った。

