年末年始は、さまざまな職場で人手不足が起きがちです。もしアルバイト先から「忙しい時期にシフトに入れないなら、辞めてもらうしかない」と言われたら、どう対応すればいいのでしょうか。
「年末年始に入れないと契約違反になってしまうよ」──。
勤務先の上司からそう詰め寄られ、不安を感じたという人から、弁護士ドットコムに相談が寄せられています。
相談者はアルバイトとして採用される際、「繁忙期も出勤できます」と伝えていました。しかし、個人的な事情で繁忙期に出勤できない状況が続き、店長から「代わりに年末年始にシフトを入れないと契約違反になってしまうよ」と言われたといいます。
そこで相談者は、年末年始の数日間はシフトに入れることを伝えましたが、店長からは「もっと出られないのか?」と迫られ、「解雇されないか心配です」と不安を募らせています。
このように、年末年始のシフトに入らないことを理由に、会社側が従業員をクビにすることはできるのでしょうか。また、採用時に「繁忙期も出勤します」と伝えていた場合、その約束は必ず守らなければならないのでしょうか。
労働問題にくわしい金井英人弁護士に聞きました。
●「すぐ解雇」の可能性は低い
──年末年始のシフトに入らないことを理由に、会社側が従業員をクビにすることはできるのでしょうか。
そもそも解雇は、従業員の生活を大きく脅かすものですので、いつでもできるというものではなく、法律は、限られた場合にしか解雇することを認めていません。
具体的には、(1)普通解雇(能力不足や勤務成績不良など)、(2)整理解雇(いわゆるリストラ)、(3)懲戒解雇(会社の風紀を乱す重大な非行など)の3つの類型にあたる場合に限られています。
さらに、これらのいずれかにあたる場合でも、その解雇が「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である」と認められなければ無効とされます(労働契約法16条)。
そのうえ、アルバイトのような有期雇用の場合、あらかじめ定められた契約期間中は雇用を継続することが前提です。そのため、契約期間の途中で解雇するには「やむを得ない事由」が必要とされています(労働契約法17条)。
この「やむを得ない事由」については、無期雇用の解雇よりも厳しく解釈されます。期間満了を待つことができないほど、特別に重大な事情がなければならないと考えられており、繁忙期に出勤できないという程度では該当しないと考えられます。
ですので、たとえ「繁忙期に出勤できる」という約束をしていたとしても、ある年末年始にシフトに入れないことを理由に、直ちに解雇されてしまう可能性は低いといえます。
●バイト開始前に「雇用条件通知書」や「雇用契約書」をもらうべし
──採用時に「繁忙期も出勤します」と伝えていた場合、その約束は絶対に守らなければならないのでしょうか。
まず、年末年始など勤務先の指定する繁忙期に出勤するという具体的な約束をして採用されていた場合には、勤務先も繁忙期に出勤してもらえることを重視していますので、毎回指定された期間に出勤できないとなると、契約違反と評価されてしまう可能性はあります。
もっとも、身内の不幸や急病、学生の場合は急な試験や実習など、正当な理由があれば休むことは可能です。
契約違反と評価されるような欠勤が続くと、普通解雇が可能な状況になってしまうおそれもありますし、解雇はされなくても、有期雇用の契約期間が満了した際に、契約が更新されない可能性はありますので、この点についても注意が必要です。
アルバイトを始める際には、勤務時間やシフトの考え方など、どのような条件で働くことになっているのかを後で確認できるように、「雇用条件通知書」や「雇用契約書」を必ず受け取っておくことが大切です。
【取材協力弁護士】
金井 英人(かない・ひでひと)弁護士
愛知県弁護士会所属。労働事件、家事事件、刑事事件など幅広く事件を扱う。現在はブラックバイト対策弁護団あいちに所属し、ワークルール教育や若者を中心とした労働・貧困問題に取り組んでいる。
事務所名:弁護士法人名古屋法律事務所 みどり事務所
事務所URL:https://www.nagoyalaw.com/

