久しぶりに自分の両親に会ったら同じようなことが起きるかもしれない。実はとても身近にある話。それは、自分の親が現代の常識とズレていることに気が付かず、古い価値観のまま正しいと主張することだ。周囲から「老害」と呼ばれるのが、自分の親だったら?西野みや子(@miyakokko61)さん著『わたしの親が老害なんて』を紹介するとともににインタビューを行った。
■非を認めない頑固な両親


スーパーで対応中、「こっちは客だぞ。金を払っているのに、偉そうなことを言うな!」と怒鳴る人がいた。クレーマーでお馴染みの老人だ。 「ああいうのを老害っていうんだろうね」と、周囲の人の囁く。その言葉は、まるで自分に言われているように突き刺さる。なぜなら、自分の父親と重なり合うからだ。






ある日、両親とチェーン店の寿司屋に言った。順番待ちが長く、栄子はトイレに抜けた。戻ると、「順番を抜かすな、非常識だぞ!」と、入り口で騒ぐ人がいる。何事?かと思って見ると、周囲から冷たい視線を浴びているのは、自分の父親だった――。店員が人数の少ない人を優先的にカウンター席へ案内したことが発端。事情を説明すると父親は納得したもの、食事中も「何が効率化だ。お金を払う客に対して失礼だろ」と、不機嫌なまま、運んできた店員に「ビールが遅い」と八つ当たりし、「お前の顔は見たくない、次は別の店員に来させろ」という。こうして一緒に外出すれば、店でクレームを言い、悪びれない親の代わりに栄子が謝罪する。
■80代の父と母。昔の価値観を押し付けてくる言動が煩わしい...




娘の栄子は、現在は夫と二人暮らし。80代になる両親は、近所に住む。娘の美咲は、すでに成人して結婚。美咲が小さいときは面倒をみてもらったり、とてもありがたい存在だった。しかし、娘が巣立ち、夫婦二人の時間が当たり前になると、頻繫に電話がかかってくる親の存在が煩わしくなった。





しかし、栄子は「長女の私が面倒みるしかないよね」と、半ばあきらめている。そんなある日、妊娠した娘の美咲が帰省。「つわりでほとんど食べられない」という美咲の声を無視してお寿司の出前を取り、「生ものは控えてる」と言えば「お祝いだから」「ちょっとくらいいいんじゃないか」と一口でも食べさせようとする。さらには、「染めた髪は、赤ちゃんに悪い影響があるんじゃない?」と昔の価値観を押し付けてきた。




元教員だった父は頑固で、母は古い価値観のまま、それが正しいと思っている。西野さん自身「誰かを明確に『老害』と感じた経験はあまりない」という。しかし、「描きながらあらためて感じたのは、『老害』とは特別な誰かを指すものではなく、私たちのすぐそばにあるものだということです。年齢に関係なく、自分の価値観や経験を他人に押しつけてしまったり、異なる文化や考え方を受け入れようとしない態度が、そうした摩擦を生む原因になるのではないかと考えています」と話す。




栄子の娘・美咲の妊娠においては、西野さんの体験が反映されている。「私は妊娠中につわりがひどく、ファストフードを少量しか食べられなかったのですが、相手に悪気はないものの「二人分食べないと」と言われるのがプレッシャーになっていました。無痛分娩を視野に入れていましたが、出産の痛みはみんなが通った道だからと女性陣から反対を受けました。子どもが生まれて漫画家として活動し始めたにもかかわらず『旦那さんは仕事があるから母親が家事育児をしないと』と言われたことがあります」
老害という言葉の実態は、実は特別なことではない。私たちの身近な人、そして自分自身にも起こりうるものだ。「この作品を通じて、『老害』とされる人たちの背景や、なぜそうなってしまったのかを知ることで、私たちもまた同じ道を歩まないように、自省するきっかけになればうれしいです」
取材協力:西野みや子(@miyakokko61)
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