2歳で先天性ミオパチーの診断を受けた俳優の星野真里さんの長女・ふうかさんの日常には多くのハードルがあります。車椅子生活、人工呼吸器の使用、学校で理解してもらうことの難しさ。それでも星野さん親子は前を向いて歩み続けています。「かわいそう」という視線に対して、ふうかさんは「私の普通を発信したい」と語ります。医療的ケア児として直面する制度の壁、それでも得られた「頼ることの大切さ」という気づき、そしてふうかさんが友達に手伝ってもらって感じた嬉しさ。日常生活での工夫や活用できる支援制度、医学研究の最新動向について三澤先生に解説していただきながら、今を大切に生きる星野さん、ふうかさん親子の姿を通して、先天性ミオパチーとともに生きることの意味を考えます。
※2025年12月取材。
>【写真あり】星野真里さんの長女「先天性ミオパチー」診断後の幼少期の姿
星野真里(俳優)
1981年7月27日、埼玉県生まれ。1995年、NHK「春よ、来い」で本格的に俳優活動を始める。同年TBSテレビ「3年B組金八先生」において坂本乙女役を好演、広く認知される。2001年日本テレビ「新・星の金貨」主演、同番組主題歌「ガラスの翼」でCDデビュー。2005年「さよならみどりちゃん」で映画初主演し、第27回ナント三大陸映画祭主演女優賞を受賞。現在では俳優業のほかにコメンテーター、番組司会、エッセイ執筆、ナレーションなど、幅広い分野にて足跡を残している。2015年7月、第1子女児を出産。
ふうか
2015年7月生まれ。10歳。先天性ミオパチーを患いながらも電動車椅子を乗りこなしたくましく生活している。2025年、24時間テレビに出演するなどメディアやSNSを通して多くの人々に日常生活や日々の挑戦を発信している。
三澤園子(日本神経学会認定専門医)
東京科学大学脳神経病態学分野(脳神経内科)教授。日本内科学会総合内科専門医・指導医。日本神経学会専門医・指導医。日本臨床神経生理学会専門医。日本神経免疫学会神経免疫診療認定医。千葉大学医学部卒業。千葉大学大学院医学研究院脳神経内科学准教授を経て、2025年5月から現職。
直面した生活の中の不便さと“難病”を越えてたくましく成長する娘の姿
三澤先生
日常生活で感じる不便さについて教えていただけますか?
星野さん
基本的に今は車椅子に乗って生活をしているので、行けるお店や遊ぶ場所、できることも限られています。バリアフリーはだいぶ整ってきてはいますが、例えばお手洗いに行くにしても、ユニバーサルベッドがあるといいのですが、多目的トイレもまだまだ数が少ないのが現状です。日常の中でまだまだ我慢することは多いですね。
三澤先生
ユーザー目線はとても大切ですね。そのほかにお母さんとして感じる苦労はありますか?
星野さん
人工呼吸器を使うようになってから、特に学校で感じるハードルの高さがあります。医療的ケア児が少しずつ増えて、特別支援学校や学級ではないところにも通うようになってきているようですが、まだまだ稀なケースで、慣れていない先生や初めて対応するという先生方も多くいらっしゃいます。また、自分で何事にも一生懸命に情報を取りに行かないと安心して過ごせないというのが現状です。
三澤先生
医療的ケア児への理解という点で、難しさを感じられているのですね。
星野さん
わからないから、怖いから、何かあったときに困るからということで、実際に学校で人工呼吸器を使えるまでに何個も手順があり時間がかかります。同じ支援学級にいても、医療的ケアがあるとないとでは、学校での対応が全く異なります。こんなに身近にいても知らないことがたくさんあると思いました。だからこそ、私たちの経験を広くお伝えしないといけないということを強く感じています。
三澤先生
一方で、日常生活での楽しさや成長を感じたエピソードはいかがですか?
星野さん
身体機能としては弱さもあるのですが、理解力や言葉の発達が本当に素晴らしくて、私が頼りにするくらいのしっかりした子に育っています。すでに私の相談相手として相談できるほどです。ちょっとイライラしてしまったエピソードを相談すると、「もうちょっと違う言い方があったんじゃないの?」とか「こういうふうに考えてみたらどう?」とか、「ママはいつもそういうところあるよね」みたいなことを言われます。
三澤先生
的確なアドバイスをくれるのですね。
星野さん
私のことをよく見ていて、的確なアドバイスをくれます。赤ちゃんのときから動けない分、言葉で周りの方に伝えていかないといけないという想いで接してきました。いわゆる赤ちゃん言葉もあまり使ってこなかったのですが、それを見事に体現してくれています。
三澤先生
ふうかさんのことを公表しようと思った経緯について教えていただけますか?
星野さん
漠然とした不安を抱えていたとき、インターネットでいろんな情報を探して、同じように筋肉が弱い、歩くことができないというお子さんを育てているご家族の姿を目にすることがありました。すごく楽しそうに生きられていて、もちろんご苦労がある中での幸せな時間の発信だとは思いますが、そういう時間があるということは確かで、そういう皆さんの笑顔がすごく救いでした。
三澤先生
そのような発信はとても貴重ですし、前向きに考える助けになりますね。
星野さん
はい。私たちも家族みんなで笑い合えるよねという勇気をいただいていました、いつか私たちも私たちなりの姿をお見せすることで、明るい未来があるよと思ってもらえると良いなという想いがありました。
三澤先生
ふうかさんご本人の気持ちはいかがだったのでしょうか?
星野さん
本人が年相応にSNSに触れることが多くなり、YouTubeをやりたいと言い始めたタイミングがありました。人の視線というのはとても感じてきているはずの彼女が、それでも人前に出たいと言ったことが、私としてはすごく驚きで、とても頼もしいなと思いました。
三澤先生
先天性ミオパチーのお子さんも、成長に伴ってできることや、やりたいことがきっと変わってくると思います。それに沿って必要なサポートを見つけていくのも苦労されるところではないでしょうか。
星野さん
最初の壁はふうかが小学生になるタイミングでした。それまでは幼稚園の前からお世話になってきた発達支援事業の先生方や相談相手がいることがすごく安心でした。しかし、小学校入学を機に、支援のシステムが全て変わってしまうので、またそこから新しい人や場所でお世話にならないといけないということがあり、とても大変でした。
三澤先生
活用できる制度や支援がシームレスになりきっていないことは課題を感じる部分ですね。制度を作る側からは目の届きにくい点だと思うので、大切な声だと思います。
星野さん
さらに、この先は18歳の壁というのがあり、児童から成人となるので制度が変わります。その制度の狭間、転換期は悩みが多く発生するタイミングです。
三澤先生
病気によりお困りになることは違い、年代によっても変わってくるので、利用者にしか見えてこない問題がありますよね。日本は制度を丁寧に作るので、高い品質で上手く機能している部分がある一方で、融通がきかないこともありますよね。
活用すべき支援制度と進歩する医療の研究。星野さん親子が発信したい想いとは
星野さん
昔は誰かに頼るということが良くないことだという思い込みがありましたが、娘が疾患を抱えていて、いろいろな症状や障害があるおかげで、私は人に頼ることができるようになりました。そのために制度や支援体制は作られているのだから、ありがたく使わせていただくべきだと考えるようになりました。
三澤先生
とても大切な気づきですね。実際に活用されてきた支援制度について教えていただけますか?
星野さん
在宅診療というものがあると知ったときは、すごく衝撃でした。病院は通うものだと思っていたのですが、家に来てくれることは、子育ての中ですごく助けられました。また、リハビリも在宅でできますし、医療機器や生活に必要な備品についてもレンタルでいろいろな環境を整えてもらえます。
三澤先生
金銭面についても気になる方が多いと思いますが、大変だと感じる場面はありましたか?
星野さん
小児慢性特定疾病医療費助成制度の認定を受けているので、医療費の補助を受けています。また、身体障害者手帳も取得しているので、補装具や車椅子も何割かの自己負担で購入できるようになっています。様々なサービスを使う上でお金の面でも非常に助けられています。先天性疾患と向き合う上で大切な視点について先生の考えを教えてください。
三澤先生
あまり見ない病気や重い病気を診ると、病気のことに気を取られてしまいがちです。しかし、その病気はその方の一部でしかありません。先天性ミオパチーは、元々持っている遺伝子の変化で筋肉が少し個性的という捉え方もできます。もちろん病気という考え方もありますが、ふうかさんの個性、多様性の一つという捉え方もできるのかなと思います。
星野さん
最初の頃は私も病気に対して漠然とした不安や複雑な想いを感じていました。しかし、自然とふうかの個性として考えるようになったと感じています。
三澤先生
ふうかさんのように、将来どういうことをしたいのか、もちろん苦手なこともあると思いますが、できることは何か、やりたいことは何か、そのためにはどうすればいいのかと考えると、前向きに向き合うことができるのではないかと思います。
星野さん
改めて考えてみると、先天性ミオパチーだからということは何も考えていません。これからもそのような考えになることは無いと思います。ふうかがしたい事、できる事を探しながら日々前向きに生活しています。
三澤先生
星野さんとふうかさんを見ていると、病気とうまく付き合われているなと感じています。とてもポジティブに捉えて、前向きに発信されて、とても素晴らしい向き合い方だと思います。
星野さん
ありがとうございます。先天性ミオパチーに関連する医療は進歩してきているのでしょうか?
三澤先生
前提として、医学の進歩は加速しています。医学の知識が倍に増えるまでの期間が、1950年代には50年かかっていたのが、2020年にはわずか73日になったと言う説があります。先天性ミオパチーに関しては、現時点では根本的な治療はまだ実現されていませんが、確実に前進していて、そのスピードはどんどん速くなっていると思います。
星野さん
すごいスピードですね。更なる進歩に期待したいと思います。
三澤先生
ふうかさんとの今後の生活で大切にしていきたいことについて教えていただけますか?
星野さん
最初に「病気かもしれない」「2歳まで生きられないかもしれない」と先生から言われたときには、本当にショックではありました。しかし考えてみれば、誰にでも命の限りがあって、それがいつ来るかなんて誰もわからないことです。その限りがあると思えるからこそ、挑戦できることもたくさんあって、今ふうかがいるということがすごくありがたいなと思います。本当にこれからも、今という時間を大切にしていきたいと思います。先を見ると不安ですが、今を見ると笑顔になるので、そういう時間を積み重ねていきたいなと思っています。
三澤先生
ふうかさんが最近嬉しかったことは何かありますか?
ふうかさん
私は特別支援学級に通っていて、通常学級という普通の子たちのところに行って勉強する交流という時間があります。給食を食べる時間も交流に行っています。その時にいつも私が使っている水道が故障中で使えなくなっていて、困っていたら、友達が声をかけてくれて、水を出してくれたり、いろいろ手伝ってくれたりしました。
星野さん
普段はサポーターの先生が近くにいるので、どうしても先生が助けるということが多いのですが、少しずつ通常学級に行って友達との関係が近づいていくにつれて、周りの子も変わっていって、自ら手助けできないかなと動いてくれるようになっています。子どもの力は素晴らしいなと感じています。
三澤先生
素敵なお話ですね。これから発信していきたいことはありますか?
ふうかさん
「できないから」とか「これ誘ってもいいのかな」とか、かわいそうという視線で見られることがあります。でも、みんなが「かわいそう、かわいそう」と言っても、別に私としてはみんなと変わらなくて。私にとってはこれが普通なんです。みんなが歩けるのが普通なら、私は歩けないのが普通。私の普通を、みんなに発信していきたいです。
三澤先生
ふうかさんの言葉はとても力強いですね。星野さんもふうかさんも、本当に素晴らしい向き合い方をされていると思います。多くの方が、お二人のお話を聞いてより前向きになっていただけると嬉しいです。

