●「殺人未遂罪」が認められた事例は?
──過去に、同じような行為で殺人未遂罪が認められた事例はありますか。
幅寄せ行為そのものについて、殺人未遂罪の適用を認めた裁判例は、現時点では見当たりません。
被告人の幅寄せ行為によって被害者が大けがを負ったという事案で、検察官が殺人未遂罪の適用を求めたものの、裁判所が被告人に殺人の故意はなかったとして、傷害罪の成立にとどめたケースはあります(神戸地裁判決平成15年2月20日)。
裁判所は、その理由について次のように述べています。
「幅寄せ行為は、例えば、鋭利な刃物で相手の身体の枢要部を突き刺したり、普通乗用車であえて轢過するような、その身体に致命傷となるような直接的な攻撃を加え、かつ、殺人行為としての類型性もある行為と異なり、自らの行為により相手を死に至らしめる可能性を認識するにはいくつかの段階があるといえるのであって、冷静に考えれば認識できることでも、高揚した気分の中では死の結果までは認識できないこともあり得る」
●「幅寄せ」に殺人罪が認められたケースも
──では、殺人罪に問われたケースはあるのでしょうか。
最近の裁判例では、被害者のオートバイに追い抜かれたことに立腹した加害者が、自動車でオートバイを執拗に追跡し、自車を衝突させて被害者を転倒させ、死亡させた事案があります(大阪地裁堺支部平成31年1月25日判決)。
裁判所は、次のように判断しました。
「被害車両は、自動二輪車の中では大型に分類されるとはいえ、運転者の体が車体に覆われておらず、バランスを失いやすい二輪車であるのに対し、被告人車両は、総重量が被害車両の約5倍ある普通乗用自動車である。
また、衝突時の被害車両は時速80キロメートルを超える高速度であった上、その時の現場の交通量は多かったことが認められる。
したがって、衝突時における被告人車両と被害車両の速度差が時速約11ないし14キロメートルであったことを考慮しても、本件のような状況で被告人車両が被害車両に衝突すれば、被害者が、被害車両もろとも転倒し、地面や支柱等に頭をぶつけたり、被告人車両や他の車両に轢過されたりするなどして、死亡する危険は高かったといえる。
そして、このことは、日常的に本件現場を通行し、衝突直前まで被害車両を見ていた被告人も十分認識していたと認められる。それにもかかわらず、被告人は、被害車両に衝突してもかまわないという気持ちで、あえて被告人車両を被害車両に衝突させたのであるから、そこには、その衝突により被害者が死んでもかまわないという気持ちが表れていると認められる」
そのうえで裁判所は殺人罪の成立を認め、被告人に懲役16年を言い渡しています。
【取材協力弁護士】
本間 久雄(ほんま・ひさお)弁護士
平成20年弁護士登録。東京大学法学部卒業・慶應義塾大学法科大学院卒業。宗教法人及び僧侶・寺族関係者に関する事件を多数取り扱う。著書に「弁護士実務に効く 判例にみる宗教法人の法律問題」(第一法規)などがある。
事務所名:横浜関内法律事務所
事務所URL:https://jiinhoumu.com/

