入院をきっかけに生活が破綻する〈老後ひとり難民〉 高齢化が進む支援現場の限界|沢村香苗

入院をきっかけに生活が破綻する〈老後ひとり難民〉 高齢化が進む支援現場の限界|沢村香苗

深刻な状況をギリギリで支えている人たち

このような問題について、正式な業務として解決にあたるべき人は通常決まっているわけではありません。

実際に「老後ひとり難民」がギリギリの状態になったとき、ボランティア同然で支えている人たちがいます。自治体や地域包括支援センターの方、ケアマネジャー、民生委員、医療ソーシャルワーカー(MSW)などです。

民生委員は、民生委員法に基づき厚生労働大臣から委託された「非常勤・無給」の地方公務員です。一般に、高齢者や障がい者のいる世帯、児童・妊産婦・ひとり親家庭などの状況把握のため、家庭訪問や地域での情報収集を行い、ニーズに応じて福祉サービスなどの情報提供や相談支援を行います。

「老後ひとり難民」のサポートという点では、身寄りのない人が亡くなった際に、葬儀を行うための「葬祭扶助」の申請を民生委員が手伝うこともあります。

葬祭扶助とは、生活に困窮している人が亡くなった際に、その葬儀や埋葬に必要な最低限の費用(棺、骨つぼ、火葬や埋葬の費用など)を自治体が援助する制度で、通常は亡くなった人の親族や関係者、あるいは自治体の担当者が申請するものです。

また、民生委員が本人の了承を得て、病院のつき添いをするなど、地域の助け合いの一翼を担うケースなどもあるようです。

しかしながら近年は、民生委員の担い手不足と高齢化が深刻な問題となっています。

民生委員の任期は3年で、一斉改選が行われますが、直近の2022年12月の一斉改選では、定数約24万人に対し、約1万5000人の欠員が生じており、充足率は93・7%にとどまりました。

また再任委員の割合が約7割と高く、新たな担い手の確保が難しい状況が続いています。

背景には、住民の抱える課題の複雑化・多様化により、民生委員の活動内容が広範多岐にわたり、負担が大きくなっていることがあります。

民生委員の多くは高齢者ですが、仕事をしている高齢者が増えていることなどから、担い手の確保はさらに困難になっています。

また、民生委員制度が始まった当時は日本経済が右肩上がりで、今よりも余裕のある人も多かったと考えられますが、現在は余裕のある人が少なくなってきているという構造的な問題もあるようです。

今後は民生委員の不足が深刻化する可能性が高く、「老後ひとり難民」問題の解決手段として期待するのは難しいのではないかと思います。

医療ソーシャルワーカー(MSW)は、病院において患者とその家族が抱える心理的・社会的問題の解決を支援する専門職です。

たとえば、患者が「治療費が払えるか不安だ」と相談に来た場合、MSWは患者の経済状況を把握したうえで、利用可能な公的助成制度について情報提供を行います。

また、必要に応じて社会福祉協議会等の関係機関と連絡を取り、手続きのサポートを行うこともあります。

MSWの重要な役割の一つは、退院を支援することです。たとえば大腿骨頸部骨折で入院した高齢者が、「ひとり暮らしで不安だから、退院したあとは施設に入りたい」と希望した場合、MSWは本人の意向を尊重しつつ、介護保険の利用手続きや施設探しをサポートします。

また、脳梗塞の後遺症で左半身が不自由になった高齢者が自宅で生活することを目指すようなケースでは、自宅のバリアフリー環境の整備や、ホームヘルパー、デイサービスなどの導入について、ケアマネジャーと協力して調整を行います。

MSWは、医療と福祉の架け橋として、患者の生活を多面的にサポートしています。医師や看護師などほかの医療専門職とチームを組み、患者に最適な支援を提供するのがMSWの役割です。

病院内のカンファレンス(会議)で患者情報を共有し、退院後の生活をイメージしながら、必要なサービスの調整を進めるのです。

なおMSWは、社会福祉士や精神保健福祉士などの国家資格を取得していることが望ましいとされていますが、法律で資格要件が定められているわけではなく、病院の判断に委ねられています。

一般病床数が100床以上の病院では、医療法施行規則によってMSWの配置が努力義務とされているほか、がん診療連携拠点病院や地域医療支援病院の指定要件として、MSWの配置が義務づけられています。

「老後ひとり難民」が救急車で担ぎ込まれて、入院に至るような病院には、MSWがいることが多いと思われます。

配信元: 幻冬舎plus

提供元

プロフィール画像

幻冬舎plus

自分サイズが見つかる進化系ライフマガジン。作家・著名人が執筆するコラム連載、インタビュー、対談を毎日無料公開中! さまざまな生き方、価値観を少しでも多く伝えることで、それぞれの“自分サイズ”を考え、見つける助けになることを目指しています。併設のストアでは幻冬舎の電子書籍がすぐに立ち読み・購入できます。ここでしか買えないサイン本やグッズ、イベントチケットも。